studio Odyssey



序章

 しんとした部屋の中。
 どこまでも続くかに思える、闇に包まれた部屋の中。
 それは、静かに光を放っていた。
 人形。
 薄くあけた瞳で見つめる人形に、青年は意識が吸い込まれていくのを感じていた。暖かい流れの中に身体ごと包まれて、心が風に洗われるように、透明に透き通っていくのを感じていた。
 よくは、わからなかった。
 ただ、心を籠めて動かし続けた人形が、自分の心に語りかけてくるようだった。
「今こそ、思い出しなさい」
 声が聞こえた。
 懐かしい人の、声だった。
「あなたのなすべきことを…」
 おぼろげになっていく意識の中で、青年はその部屋のベッドに横たわっている少女の姿を求めた。
 思い出すことなんて、もう何もない。なすべきことなんて、俺は知らない。
 俺はただ、こいつのそばにいたいだけなんだ。
 ただもう一度、観鈴の側で穏やかな日々を過ごしたいだけなんだ。ただ、観鈴を笑わせてやりたいだけなんだ。
 ただ、それだけなんだ。
「そのために──」
 静かに、記憶の中の母の声が言った。


 我が子よ…
 よくお聞きなさい。
 これからあなたに話すことは…とても大切なこと。
 わたしたちが、ここから始める…
 親から子へと、絶え間なく伝えてゆく…
 長い長い…旅のお話なのですよ。