studio Odyssey



ひとつだけ

「ひとつだけ。最後の手だて」
 青年は静かに言った。
「子から子へ──翼人が夢を継ぐように、俺たちもまた、その意志を。そしていつか──」
 悲しみの向こうへと消えていくその腕を、青年は強く握りしめた。
ごま挿絵より 「時を越えてさえ、俺は旅を続けることができる」
 引き寄せる。「観鈴っ」
「かけがえのない翼に、再び巡り会うための旅を」
 少女の身体を引き寄せ、青年は空の彼方を見た。
 一羽の鳥が羽ばたき、その向こうへと飛んでいく。
「行こう」
「…往人さん」
 悲しみに満ちた瞳に向かい、青年は言った。
「俺たちの空へ」
 風と共に、翼がひるがえった。


「同じ目を、してなさいます」
 その翼を見つめ、女はかすかに微笑んだ。「柳也さまと」
「いや」
 青年は口許を弛ませて返す。
「お前によく似ている」
「そうでございましょうか」「ああ──」
 高く、晴れ渡った空。
 光に満ちた空。青年はその、千回目の夏空に向かって、静かに言った。「いいんだ」
「俺たちの願いなんか、本当は、忘れてもいいんだ。自分のための、つつましい幸せを求めても、いいんだ。全てを忘れて、幸せになってもいいんだ」
 女もまた、静かに微笑む。
「次の── 千一回目の夏に」
「ああ」
 その向こうへ。
「最後はどうか、幸せな記憶を」
 翼が羽ばたいていく。