かきあげるということ。
99年版の「おはなしのつくりかた」では、ここで書き直しの仕方について書いていましたが、新版では書き直しではなくて、書き上げると言うことについて書きたいと思います。
どちらかというと、書き直しの仕方よりも、書き上げることの方が、最近ではもっともっと重要になってきているような気がするので。
まぁ、多分、いつかはつまずくと思うんですよね。
それが処女作でかはわからないですけど、多分、処女作でというのが一番多いと思います。
それは、技術的な事もあるでしょうし、能力的な事もあるでしょう。けれど、それ以外の事でも、多分、簡単につまずくと思うんですよ。
どんなにくじけない自信があっても、どんなにテクニックがあると思っていても、はじめて何かを作る時は、きっとつまずくと思うんですよね。
もしもつまずく事なく書き上げることが出来たとしたら、あなたはきっと「書き上げるために必要な何か」をすでに手に入れているのでしょう。なので、もしもこの段階で書けちゃうようであれば、今回(と次回)は読む必要はないです。
今回は、技術的な事でも、能力的な事でもなくて、泥臭い話をひたすらする、精神論の世界なのです!
でも、「書きたいものはあるし、今までにもいくつものものを書こうとして書き出したけれど、書き上げたことがない」という人は、もしかしたら、その最後に必要な「書き上げるために必要な何か」を手に入れるための手がかりになるかも知れません。
Fate or Fortuneという、3時間の奇跡
ここで取り上げる作品は、読み切りに掲載されている、Fate or Fortuneというおはなしです。
この作品が生まれるまでの産みの苦しみを、ドキュメンタリーでお伝えしながら、その第一稿、第二稿と見ていきます。
これが産みの苦しみで、お前らもこれを味わうんだ!きっといつかな!
はじめに
まずは、ちょっとこのFate or Fortuneというお話の生まれることになった理由を説明しなければなりません。
このおはなしは、2001年5月、studio Odysseyが登録されている、アニメ・同人誌・創作系サークルサーチエンジンから届いた1通のメールから、全ては始まります。
webサイトの名前は『コミコミねっと』。
メールの内容は、「コミコミストーリー」という、小説系コンテストのお誘いでした。
基本的に僕はあまりコンテストとかに応募しないのですが、こちらには第一回のコミコミ女学園というコンテストでくずせんの板倉をけしかけて応募させていたんで、これは僕も参加しないとなぁという感じだったのです。
で、参加したわけですが、規定は以下の通りです。
- 4テーマ、8枚のCGの中から好きなテーマを選ぶ。(1テーマにつき、都合CG2枚)
- そのCGのシーンを必ず挿入すること。
- 文字数は4000字程度。(実際はバイト換算、1000Byte以内らしい)
- それ以外は自由。作品のテーマ、文体、ターゲットその他の決まりはなし。
- コンテストは、投票とコミコミスタッフの審査により、決定する。
締め切りは7月6日。
そして、8月24日の結果発表へと、このおはなしづくりは進んでいきます。
書こうと思った、テーマ
以下、すべて時系列で完成まで進めていきます。
記憶によると、制作開始は6月のころ。
コンテストの告知があって、6月の頭に、コミコミねっと(以下、コミコミ)のサイト上でテーマCGが公開され、「さて、どれを書こうかな」と考え始めまたのでした。
「さて、どれを書こうかな」と書きましたけれど、実際のところは見た瞬間に決まっちゃった<んですがね。
それがテーマ1。「FENCER - 剣士」というタイトルの付けられたCGです。このCGは読み切りに掲載されている、Fate or Fortuneの方で確認できますが、まぁ、とりあえずぱっと見て貰う程度でいいと思います。
ようは、これを選んだ、と。
さて。
では何故これを選んだか。
理由は簡単。
一番の激戦区になるであろうと、簡単に予測できたからです。ジャパニーズスタンダードファンタジーって感じの、CGだったしね。
どうせやるなら、激戦区の中であえて書きたいと思ったのですね。結果が悪くても、言い訳が立つし。(実際、それが言い訳という…)
さて、そんなワケでCGを決定した段階で、今回のお話の足がかりとなるテーマも決定しました。
すなわち、「このCGから想像されるストーリー」というものが、今回のテーマです。
テーマは深く考えてはいけないという奴ですね。
さて、では、次はどんなお話を書くか。です。
激戦区なので
激戦区になるだろうと予測したので(実際、一番投稿数は多かったのですが)、では内容をどうしようと考えました。
CGをご覧いただければわかるように、このCGは、この2枚で十分なドラマを持っています。あえて誤解を恐れずに言うなら、「きっとこのCGの中には、すでにドラマがあるんじゃねぇか?」とすら思えます。
なので、まずはそのドラマを考えることから始めました。
女と、ラッテという少女がいるのですが(主人公と、ラッテと言う名前はすでに決まっていた)、イラスト上、二人はどう見ても何らかの関係があるように見えます。と言うより、きっと姉妹だとか、同一人物だとか、なんかそんなイメージがわいてくるのです。
で、剣士、ジェイルは大きな剣をもっている。まるで魔剣のようなやつ。きっとこの剣に、なんかしらのストーリーがあるのだろう。そして女もまた、よく似た剣をもっている。なんかしらの関連が、この辺に…
絵から見られるさまざまなストーリーを考えました。
激戦区なので。
なので、考えて考えて、そしてそれら全てを排除しました。
激戦区なので。
激戦区なので、1、2日で頭に思い浮かんだようなストーリーは、きっと誰しもが考えてくるようなもので、きっと誰かとかぶるだろうなと考えたのです。それはお話の持つインパクトを弱らせてしまうだろうという考えと同時に、そんなモン書いても、僕が嬉しくないし。
やるからには、たった4000字でも、読んだ人におもしろかったと思ってもらえる物を。
他の誰ともかぶらない、オリジナルなものを。
それが、大前提にあったのです。
もっとも、それが傲慢であり、そして、やってはいけないことでもあるのですが…そんなところまで考えが及ぶわけもなく。
作品のテーマと、絶対にやらないこと
これから語ることは、やるべきではないことです。
おはなしづくりにおいて、必ずしも必要であることではないですし、むしろそれは書けなくなってしまう一因を作る事になるでしょう。
これらの事を考える事、それ自体は悪くはないのですが、考えて足かせにするべきではありません。
それはきっと、物語を完成させなくなるでしょう。
しかし、それでも完成させることは出来ます。
これから語る事は、その「書き上げるために必要な何か」を見つけるために、知っておくといいかも知れないことです。
さて、そんなワケで激戦区になりそうな感じだったので、まずは作品のテーマというものを決めることにしました。
先にもテーマという話が出ていましたが、ここで言うテーマとは、CGのテーマではなくて、お話の中での、テーマです。ようは、もうちょっと突っ込んだもの。
とは言え、たった4000字です。
その4000字の中でどれだけのテーマが書けるかというと…疑問ですね。
ショートショートのようなものであれば、ひとつの気の利いたオチだけあれば十分な分量です。そしてそのオチがテーマであれば十分なものですが、僕はこの段階で、もっと大きなテーマを扱おうと思っていました。
それはまぁ、1、2日で頭に思い浮かんでしまうようなものであったというのもあるのですが。
さて、テーマの重要性と、その内容についてはすでに連載の中で触れているので書きませんが、このCGから僕は『剣』というテーマを考えました。
ここで言う、『剣』というテーマは、このサイトにあるお話、「the WORLD of ADVENTURERs」で書かれている、『剣』をイメージしてください。(2005-09-08現在、このおはなしはまだ復刻されていません)
全体的なお話はあんな感じで、今回の4000字は、そのクライマックスだけを抜き出した感じにしよう。
と、そんな風にして、考えました。
お陰で、大苦戦となるのですが、そんなことは知るよしもなく。
そして絶対にやらないことというのを決めました。
先に触れた、1、2日で頭に思い浮かんでしまうようなものです。
まずは、ラッテと女を、同一人物にはしないこと。
これは、なんとなく安易です。結構誰でも考えつくし、それはこのCGを書いた方が考えた「ドラマ」に乗せられてしまう感じがしてイマイチ許せない。
自分がですよ?
この辺の事は、コンテストのあとがきでも書いたのですが、きっと誤解している人がいっぱいいるんだろうなぁ。偉そうなヤツって。
物書きとしては、やっぱり絵は描けない分、グラフイッカーの人は尊敬するし、すっごいと思うんですけど、グラフィッカーの人たちが自分に自信やプライドがあるように、僕らにも少しくらいはそういうのがあって、そこで勝負があるんじゃないかなぁと思うんです。
物書きとしては、そうして考えつくようなものは、簡単にはやらない。
なぜなら、物書きだから。
プロ意識ってわけじゃ、ないんですけどね。
そして、そうしてCGに対して勝負の姿勢をとる以上、ドラマはCG描かれている以上の事は作らない。
これは、義理人情みたいなモンです。やっぱり一方的に「こうだー」っていうのは抵抗がありますし、CGの世界が語りかけるドラマをあえて聞こえないふりをする以上、足かせ的にそう思ってやらないといけない。でないと、「じゃあ、テーマCGっていらないじゃん。フリーで書けばいいじゃん」という話になってしまう。
1つの(正確には2枚の)CGから、たくさんの人たちが作品を作るのが、今回の趣旨。
そして、その中で生まれてくるたくさんのドラマの最優秀作をコンテストで決めよう、というのが、今回の企画意図。
ならば、やっぱり絶対に越えてはいけない一線があるはずなのです。
僕はそれが、上記の部分だと思ったわけです。
そんなわけでまとめると、以下が、僕の作った足かせです。
ちょっと(いや、かなり)挑戦的に取られるかと思う足かせです。というのも…心苦しいのですが…1、2日で出てくるものはやらないとして考えたので、この辺のことは1、2日で出て来ちゃいそうな気がしたので、やらないことにしたんです。
- 女とラッテを同一人物にしない。
- ジェイルの持つ剣と、女の持つ剣に意味を持たせる。
- 女を魔族とか、安易に悪役にしたりしない。
- ラッテ、女、ジェイルの関連は必ず作ること。
- 絵から逃げない。(オチとかも)
- 女と剣に名前は付けない。
- 4000字以内。
っていうか、最後の2つは、面倒臭かったのと規定。
しかし、最後の規定ってやつが、僕にとっては一番の難関であるとは想像に難くない。
そしてこの羅列を見て、ここまで読み進めてきた貴方は「ああ、これは無理だよね」と思うべき。
だって、どう考えたってこれ、考えすぎだもん。
そんなわけで、このおはなしは迷走を続けるのです…
書き直し
はっ、はずかしぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
僕は素人物書きとしては恵まれた環境にいる人なので、書いたものを読んでくれる人たちがいます。
オデスタッフの面々なのですが、実にありがたい事です。
さて、そんなわけで、今回書いた第一稿も、はっきりいって自分でダメじゃんと思っておきながらも、校正のNこと、李の他に、室長、いまむら風の3人に読んで評価していただいた。
ちなみに言うと、李といまむら風は文系で、僕より本をたくさん読むので、指摘されまくり。
指示代名詞が多いとか、倒置が多すぎて、強調が埋もれて強調になってないとか。
ありがたいです。
言われても、文法的なことはわかりません。
すみません、それは嘘です。
ともあれ、今読み返しても思いますが、自分に課した足かせのせいで、ストーリーががんがん、破綻していますね。
しかも、誰一人として気づかなかった大バカな誤字。
気づかずに入稿まで行き、入稿後、コミコミスタッフから指摘されて、初めて気づいたという、見落としなんかもあったりしますが(ジェイルのフルネームは、ジェイル・バーストーン。ジェイル・バーストンではありません)、まぁ、それはそれ。
さて、ともあれ、第一稿ですか、これは雑ですねー。
いや、そうでもないだろうと思う方もいらっしゃると思うのですが、いやいや、前半部分はいいと思うんです。前半部分は。
特にジェイルと女の戦いとか、ジェイルの回想シーンとか。
でもね…
ラッテが出てきた瞬間に、この物語は終わった。
では、その原因は何かを考えてみましょう。
まぁ、これは簡単な事です。
ジェイルと女に比べて、ラッテについて、考えてなさ過ぎるのです。
なので、ラッテの台詞はまるでおうむ返しのような台詞になってしまっています。ラッテに全然血が通ってない。生きてない。
文章も、先に触れているように、ずいぶんと読みにくいです。
そのお陰もあって、長さもすでにこれで4000字を越えています。
ここまで来ると、もう、切り貼りではなんとも出来ないでしょう。
書き直した方が早いものです。