そんなわけで、パーティ、プロンテラベンチの面々はフェイヨンダンジョンに挑みます。
このダンジョンはもう幾度となく訪れたダンジョンです。1F、2F、3Fなどは、もはや今のスピットたちにはプロンテラの街中をてくてく歩くのと対して変わりません。
まぁ、たまにソルジャースケルトンやアーチャースケルトンが出てきて、「おぅわ!」となったりもしますが、まゆみ嬢、いるるさん、そしてニクロムの前線三人が、軽々と片づけます。
spit:「余裕だな。
お前以外がな。
appi:「スピさん?
歩きながら、アピが言いました。
appi:「いちおー言っておきますけど、今回も目的は、スピさんのレベル上げですからね?
spit:「…わかってるよ。
じゃあ、その
間はなに!?
そんなこんなで、5F。
スピットは初めて足を踏み入れるフィールドです。
Grill:「ここが最深部か…
Nicrm:「はつたいけん。
mayumi:「のんびり会話してたら、しぼーんするよ。
irurur:「気をつけていきましょう。
spit:「おし。アピ、あんまり遠くいくなよ。
と、言ったスピットの声はむなしく響きました。
spit:「…
spit:「
アピがいない!
mayumi:「電波で確認するよ。
Nicrm:「スピが死ぬ。
spit:「うあぁぁあ、どうしよぅ!
Grill:「アピなしじゃ生きられないわけでもないでしょうに。
spit:「でも、
あながちはずれでもない。
Grill:「うん。
*2
mayumi:「アピたん、なんか違うとこでちゃったって。
appi:「なぜ左下〜?
spit:「なにそれ?
irurur:「5Fは入り口1つなんですけど、出口は4つなんですよ。どこに飛ぶかは、まー、いろいろあって。
spit:「…不思議館か。
Nicrm:「うむ。
appi:「ちょっとまっててくださいねー。
と、電波の向こうから、アピの「えい」「とぅ」という声が聞こえてきます。
appi:「どーしてー!?
どうやら何度やってもみんなのいる左上の出口に出てこないようです。
spit:「1/4に勝てない女。
mayumi:「ふぁーあ。アピたん、はやくー。
Grill:「がんがれー。
appi:「あうぅぅ。おうちかえるー。
spit:「
それだけはやめてくれ。
appi:「迎えにこい!
spit:「ガキじゃねぇんだから。
appi:「まだ子どもだもん!
*3
spit:「気長に待っててやるから。
電波をとばしていると、どうやら、イタとアブも冒険に出てきたようでした。ふたりも、こちらに急いで向かっています。しばらくこうしてまっていれば、ふたりも追いついてくるだろうとスピットは思っていました。
appi:「やっとでたー!
mayumi:「おつかれー。
spit:「じゃあ行こうか。
でもイタとアブを待ってあげる理由まではないのでした。
Abd:「私くらいまってくれてもいいじゃないですかー!
spit:「お前、最近すぐ裏切るから、ヤダ。
mayumi:「とりあえず、真ん中の方行ってみよー。
歩き出すまゆみ嬢にスピットたちは続きます。
spit:「あ、棺桶がおちてる。
appi:「ほんとだ。
spit:「片足つっこんだまま戦おうか。
appi:「それは手間が省けていいですねー。
irurur:「どこまで本気なんでしょう?
Grill:「たぶん、全部でしょう。
*4
mayumi:「この辺から、厳しくなるよー!みんな構えてー!!
spit:「おうさ!
フェイヨンダンジョン5Fの中心には、小高く土が盛られており、その上に一件の建物が建っていました。
それがいったい何なのか、スピットたちにはわかりません。もともとはこのダンジョンはフェイヨンの人々を埋葬したダンジョンだったと言われています。もしもそれがその通りなら、この建物は死者の拠り所なのかも知れません。
だから、この建物の付近には、アンデッドモンスターが多く現れるのかも知れません。
mayumi:「ソルスケ、アチャスケ、キター!
Nicrm:「刈れー!
irurur:「はいー。
Grill:「ファイヤー・ウォール!
次々とわいてくるモンスターを、スピットたちは退けていきます。
mayumi:「むぅぅ。なかなか進撃できない!
spit:「おおっ!ソフィーきたー!?
irurur:「撃ってください!ライトニングボルト!!
spit:「ひっさびさー、Lv.10!!
ita:「ああ、やっと見つけた。
奥から、イタがぺこぺこにのってやってきました。
ita:「しかし、誰ひとりとして死なずにここまで来たなら、プロンテラベンチの面々も強くなったなー。
appi:「まだスピさん
すら、死んでません。
spit:「
バロメーターかよ!?
Abd:「ぶっはー!死ぬかと思った!!
と、建物の陰から姿を現したのはアブです。
Abd:「マジにはきつい道程でしたよ!
mayumi:「だろうねぇ。
appi:「あれ?もしかして、ラバさん以外、みんな来ちゃいました?
spit:「…言われてみれば。
言われてみれば、今日は冒険に出ていないらしいラバをのぞいて、プロンテラベンチの面々が全員そろっているようでした。
appi:「これはいっちょ、宴会芸をしなければ!!
むんっとアピは気合いを入れるように口を結びました。
spit:「全員しゅうごうー。
mayumi:「よく生きてこれたね。
Abd:「人参ほしい人。
Nicrm:「痛い。
appi:「みなさん、まぶしくても、我慢してください!
spit:「?
アピは呪文の最後をちからいっぱい叫びました。
appi:「キリエ エルレイソン!!
spit:「おわぁ!
Abd:「なっ、何の魔法ですか!?
アピの言葉に、みんなの頭の上で光の十字架がはじけました。
mayumi:「バリア魔法だよ!
よく見れば、はじけた光の十字架の粒子が自分たちの身体を包み込んでいます。
ita:「一定時間、一定回数、敵からの攻撃を無効にしてくれるんだ。
irurur:「いつのまにこんな魔法。
appi:「むんっ。
アピはガッツポーズです。
spit:「よーし、準備はととのった!
スピットはワークワンドを振り上げて言います。
spit:「行くぜ!
フェイヨンダンジョン攻略!!
ita:「おお〜!
mayumi:「ホロン狩り〜。
irurur:「大人数ですねぇ。
Grill:「でもプリはひとり。
Abd:「気にしちゃいけません。
Nicrm:「リダ自体、気にしてないし。
appi:「そして何をもって攻略かも、
謎。
spit:「蟹漁師、発動!
スピットがいいました。
Nicrm:「行ってきます。
ニクロムが答えます。
irurur:「…ところで。
mayumi:「あい?
irurur:「ずっと気になっていたんですが、ニクロムさんはなぜ、蟹漁師なのですか?
appi:「ふっふー。見てればわかります。
てくてくとニクロムは建物の奥に消えていきます。
Abd:「蟹漁師の、蟹漁師たるゆえん。
スピットは腕組みをして待っています。
irurur:「?
しばらくすると…
mayumi:「キター!
ニクロムがとことこ戻ってきました。
spit:「ちょっと大量すぎ!!
その後ろにはソフィー、ソルジャースケルトン、ホロンが、無数についてきているのでした。
irurur:「トレインマスター!?
ita:「これぞ、蟹漁師の真価!!
*5
スピットたちは武器を構えてモンスターの中に飛び込みます。
ニクロムが蟹漁師と呼ばれているのは、伊達ではありません。
彼はなぜか、モンスターの出現するポイントを見つけだすという、天性の漁師能力が備わっているのです。
ニクロム歩けばモンスターが沸く。
spit:「今日も大量。
mayumi:「ちょっと多すぎ!
Nicrm:「化け物のエサですから。
Abd:「ホロンはフロストダイバで凍らせます!スピ、ライトニングで!
spit:「ソフィー片づけたらな!
Grill:「ソルスケがくるー!ファイヤー・ウォール!!
ita:「熱っ!熱ぅっ!!
irurur:「か、かこまれたー!?
appi:「バリア切れたらいってください!キリエ エルレイソン!!
Abd:「こおらないー!
spit:「詠唱はじめちゃったよ!?
Nicrm:「さーて、次のポイントいってくるか。
みんな:「
マテ。
パーティ、プロンテラベンチの面々はフェイヨンダンジョンを駆け回ります。
何をもってこのダンジョンを攻略とするか。
それはわかりません。
それは、スピットたちの冒険が、何をもって終わりとなるかと同じくらい、わかりません。
ニクロムがつれてきたモンスターのの山の中に、いるるさん、まゆみ嬢、イタが切り込みます。
背後から迫る敵に、グリが炎の壁をたて、アブが氷結魔法をかけて足止めします。
傷ついた仲間たちには、アピがヒールをかけて傷を癒します。
そしてスピットは…
spit:「沸きすぎだー!
Abd:「うわ!スピットがキレた!!
spit:「おんどりゃー!
appi:「巻き添え注意ー!
spit:「
サンダーストーム!!
ある晴れた、日でした。
フェイヨン森の中。
スピットたちの姿があります。
Abd:「おめでとー!
miyuki:「おかぁさん、スピさん、やりました。
appi:「やっとこですねっ。
ita:「長かったなぁ。
Nicrm:「漁師パワーは役に立ったかね?
appi:「それはもぅ、かなり。
Abd:「だねぇ。
spit:「…
さんさんと森の中に降り注ぐ陽光に、スピットはふぅと息を吐き出しました。
そして、言います。
appi:「これで巻き戻ったら、泣きますね。
Abd:「本気で泣くぞ。
ita:「だねぇ。
miyuki:「泣き戻り。
Nicrm:「新しい言葉?
spit:「えぐえぐ。
ita:「いいから早くスキルあげちゃえよ。
appi:「そーですよ。
spit:「はいはい。
言う、その口許は笑っていました。「サンダーストームあげとくか」
ita:「明後日?
appi:「週末はそうですね。
miyuki:「私は用事で出られないですけど、おかぁさんが行くと言ってました。
Nicrm:「ベンチ集合でいいんでしょ?
Abd:「私もやっとこ、上級職になれますよ。
appi:「プロンテラベンチ、11時半集合でいいんですよね?
にこりと笑って聞くアピに、
spit:「おう。
短く答えて、スピットはアークワンドを肩に乗せました。
翡翠色の長い髪が、風に揺れています。
miyuki:「では、プロベンに戻りますかー!ワープ・ポタル!!
ita:「いやいや、今日も疲れたなー。
Nicrm:「今日も大漁。
Abd:「大漁旗でも掲げて帰る?
appi:「悪くないですねー。
わいわいと話しながら、プロンテラベンチの面々は光の柱の中に入っていきます。
光の柱の向こうからは、プロンテラの懐かしいにぎわいの音が漏れていました。
巻き起こる風に揺れる髪をスピットはちょいと押さえつけます。
そこに、いつもの帽子はありません。
miyuki:「スピさん、先に行きますよー?
spit:「ああ。
みゆき嬢を最後に、光の中に皆の姿が消えました。
そのみんなの背中を見送ってから、スピットはそっと息を吸い込んで、歩き出しました。
ゆっくりと光の柱に近づいていきます。
一歩一歩、近づいていきます。
長い道のりでした。
みゆき嬢の出してくれたワープボタルが立ち上らせる光の柱までの距離は、ほんのちょっとです。その、ほんのちょっとの間では、振り返る時間は少なすぎます。剣士になるはずだった運命を変えて、魔法使いとなり、たくさんの冒険をして、たくさんの人たちと出会って…そして今。
振り返るには、ちょっと、時間が足りなすぎます。
だから、スピットは今日までのいろんなことを振り返ることはしませんでした。
だから、スピットは軽く口許を曲げて、一言だけ言いました。
揺れる翡翠色の髪をかき上げて、スピットは言いました。
「ありがとな」
光の向こうにからは、あの街のあの場所のにぎわいの音が響いていました。
「プロンテラベンチの仲間たち」
*6