studio Odyssey



spit、師匠になる!?



「し、死ぬ…」

 はぁはぁと肩で息をしながら、スピットはプロンテラの街中を歩いていました。
 実は、満身創痍。
 アルデバランからここプロンテラへと、やっとの思いで帰ってきたところなのでした。

「今日はもう休もう…」

 つぶやきながら、下宿先の帽子屋に入ります。と、カウンターの奥にいた主人が、スピットを見るや、

「おおっ、スピット、待ってたんだ!」
 言います。
「勘弁してください」
 即答。
「なにがだ」
 主人は苦笑いに続けます。

「さっき、お前を訪ねて女の子が来たんだが…」
「は?」
「手紙を預かってるよ。ほら、これだ」

 スピットは手渡された羊皮紙の手紙を受け取ると、くるりと裏返して差出人を見ました。

「えぶ…?」
 差出人の名前をぽつりとつぶやきます。
「ラブレターか?」

「…チガウ」


「というか、嫌な予感すらする」


 スピットはぽつりとつぶやきました。

spit、師匠になる!?


 その手紙には、こう書かれていました。

「はじめまして、スピットさま。
 わたしはウィザード、アブドゥーグとイブリンの娘、えぶともうします。(お兄ちゃんに会ったことあるみたいなので、信じてもらえると思いますけど…)*1

 突然のお手紙にびっくりしていますでしょうが、ひとつ、お願いがあってこの時代にやってきました」

spit:「…マヂですか。

「わたしは今、プロンテラから、ゲフェンに向かって旅をしています。

 わたしは父のあとを継いで、マジシャンの道を歩もうと思うのです。でも、父のような氷魔導士ではなく、スピットさんのような…」



spit:「兄妹そろって、失敬な奴らだ。


 そこには、こうかかれていました。

「スピットさんのような…


 漏電雷魔導士になりたいんです」



ebu:「あっ!!

 ゲフェンの街中。
 聞こえた声に、スピットは振り返りました。

ゲフェンにて
ebu:「はじめまして!

spit:「ホントにいたー!?
ebu:「お師さま〜。

spit:「くっつくなー!


 えぶは腰に下げた彼女の背丈にはちょっと大きすぎるブレイドをかちゃかちゃ言わせながら、スピットにくっついてきます。
ebu:「お会いしとうございました。あ、お手紙を読んでいただけたんですね!
spit:「ああ、読んだよ。
ebu:「で、そしてここにいるということは、わたしを弟子にしてくれると…

spit:「ああ…

 スピットは目をきらきらと輝かせるえぶに向かって、言いました。


spit:却下だな。


ebu:なぜっ!?

 即答のスピットに、えぶは目を丸くします。
 スピットは返します。

spit:「魔法士になろうとする者が、たとえノービスとはいえ、ブレイドなんて装備しちゃダメだな。
ebu:Σ(TпT (そうなんだ!?*2

ebu:「で、でも、でも。

 えぶは言います。

ebu:「お師さまはノービス時代、おうちのツルギを使っていたと聞きましたが…
spit:「あのころと今は、時代が違う。

 ふんっとスピットは鼻を鳴らします。
 ちなみにツルギという武器は、ノービス最強の武器。

 そしてスピットがノービスだった頃はまだ、武器を持つのに装備レベルという最低限のレベルがなければ装備できないという免許制の概念はなかったのでした。*3

ebu:「うぅぅ。

 うつむいてちょっと泣きべそ気味のえぶ。
 スピットはちょっとかわいそうになって、言います。

spit:「ま、まぁ…なんだ。せっかくだから、魔法士になるまではつきあってやってもいいぞ。

ebu:「ほんとですかっ!!

 ぱぁっと、今度は顔をあげて笑うえぶに、スピットはつぶやきました。

spit:「忙しい子だ…ともあれ…

師弟、出陣!

ebu:「はいっ!



 ゲフェン北は魔法士を目指すノービスたちの狩り場として有名でした。
 低レベルの敵、ポリンやファブル。ウィローにチョンチョン、ロッタフロッグと、たくさんのモンスターがひしめき、ひとりでも、がんばればたった一日で転職することが可能な狩り場なのでした。

spit:「しかたねぇから、盾してやる。
ebu:「ありがとうございます!

 モンスターは攻撃されると、その攻撃した人を攻撃するという習性があります。
 それを利用して、盾というのは、先に高レベル者がモンスターを攻撃して、敵の攻撃をすべて自分に向けさせ、低レベル者がひとりでは狩れないようなモンスターを倒すのを手伝ってあげる行為のことをいうのでした。

spit:「えーと…


 アークワンドを腰にぶら下げて、スピットは近くにいたモンスターに「あれでいいか」と、

 ぐーでゴスっ。

ebu:「はぅあ!!

spit:「さぁ、たたけ。

あたらないー

 っていうか、それはここらで一番強い敵です。


spit:「む。
ebu:「倒すだけで日が暮れます〜。
spit:「け。


spit:ブレイド、弱いな。

ebu:「Σ(TпT (なんか、根に持ってる!?



spit:「これはナシ。ソウルストライクっと。

 スピットの魔法に、かたつむりモンスター、アンバーナイトがぽんっと爆発しました。
ebu:「あぅ〜、べとべと〜。

spit:「サービスしとけ。
ebu:「Σ(TпTii (なにがですか、お師さま!?

 とびちったアンバーナイトのべとべとする液体をふきふきしているえぶに向かって、スピット。

ウィローは弱いです spit:「ウィローとかどうだ?
ebu:「たぶん、いけます。


spit:「しばらくはウィローかるか。

 かったるいなぁと思いながらも、スピットは近くにいたウィローを片っ端から殴りはじめました。

ebu:「お師さま!多すぎです!
spit:「さくっと倒せ。


 ほったらかして行くのもよかったのですが…なんとなく、スピットはえぶをつれて、ゲフェン北を彼女のレベル上げのために一緒に歩いてあげていたのでした。*4


師弟、ゲフェンをゆく

 小一時間ばかりたった頃でしょうか。


spit:「ん?

 ゲフェン北の森の中。
 スピットは届いた電波にはっとしました。

ebu:「どうしました?

spit:「まずい…奴が来る…

ebu:「? 誰ですか?
現れたのは…
Abd:「あれ、デート中?

spit:「…チガウ。


いや、台詞としては正しいんだけど…
ebu:「ぱぱー。
Abd:「( ̄w ̄iii

spit:「あー…説明が面倒くさいな…
ebu:「あ、ぱぱは知らないんですね。

Abd:「だれ?


spit:「お前のだ。

ebu:「えぶです。ぱぱ。


Abd:「そうか…

 アブはこくりとうなずき、言いました。


Abd:「憂いやつよのぅ。

この男は…

spit:「って。三 ゜д゜)!!。



 順応度、高すぎ!!

Abd:「憂い憂い。

 にこにこしながらえぶの頭をなでるアブに、スピットはちょっと思いました。
spit:「(こいつはきっと、腹のうちになにかをたくらんでいる!?

spit:…死ぬれ。

ebu:「はいっ!?

Abd:「憂い憂い。

って、ヲイ

spit:「かわされたー。

ebu:「お師さま、ひどいです。

spit:「ふんっ。






Abd:「そうか。スピに盾してもらいながら、レベル上げか。
ebu:「そうです。

 かくかくしかじかと事情を説明すると、すっくとアブは立ち上がりました。
Abd:「そういうことならパパ、がんばっちゃうぞー!

 と、だだっと走っていくと、近くにいたロッカーを叩いて戻ってきます。

Abd:「さぁ、えぶ!がんばれ!!

spit:「ってゆーか、殴られまくってるぞ…
 ばこっばこっと殴られるアブ。
平気か…
Abd:「だいじょうぶさー! 次だー。



パパがんばる!!



 


 パパ、がんがれ!

 でも死ぬのは時間の問題だが。*5


 そして数分後…

Abd:「あ、あとは任せた…スピ…がく。

ebu:「ぱぱー!
spit:「何しに来たんだ、オマエ…






 スピットとえぶは狩りを続けます。
 そんな中での、小休止のとき…

ebu:「ところでお師さま?

spit:「ん?

ebu:「わたしは雷魔導士になりたいのですが、雷魔導士とは、どーなのでしょう?

 スピットはえぶの問いに、すぱっと答えました。


spit:「…使えない。


ebu:「Σ(TпT (そうなんですか!?


spit:「というより、今時、単色属性マジ、ウィズは生きのこれねーよ。

ebu:「はぁ…

 えぶはよくわからないといった風です。
spit:「…さてはオマエ、魔法士になりたいという割には、あんまり勉強してねぇな?

ebu:「ぅあ…


spit:「オマエは、親の力を受け継いで、氷魔法を覚えていけよ。雷魔法よりはよっぽどつかえるぞ。
ebu:「うぅ…お師さままでそういうことをいうのですね…

spit:「真面目に強いマジ、ウィズを目指すならな。

 言って、よいしょっとスピットは立ち上がります。*6
spit:「きゅーけー終わり。

ebu:「あ、お師さま…

 立ち上がったスピットに、えぶが言いました。

ebu:「お願いがあるのですが…
spit:「ん?

 えぶは言いました。

ebu:「わたしは、お師さまの雷魔法を見たことがないのです。あの…よかったらなんかひとつ…


spit:「…漏電雷魔導士になっても、いいことなんかねぇぞ。

 そう言って、スピットは帽子のつばをちょいとあげて口許を曲げました。

 腰のアークワンドを引き抜きます。
 ぶんっと勢いよくそれを振るうと、巨大な魔法陣が大地の上に描かれました。

spit:「よくみとけ!

 風が舞い上がります。
 巻き起こる風に、空気の中のわずかな電気が、ぴりぴりと小さな雷を生み出します。

ebu:「おおっ!

 えぶは目をらんらんと輝かせました。
 その魔法は、えぶもよく知っています。

 その魔法こそ、最強の雷魔法のそれなのでした。

spit:「漏電雷魔導士になっても、いいことなんかねぇから、やめときな!

 スピットの呪文が、最後を結びました。

最大火力時の映像でお送りします






 だからえぶはやっぱり心に決めたのでした。
 決めちゃったのでした。

ebu:「お師さま!やっぱり私は、漏電雷魔導士になります!!

spit:「やめとけ。

 笑いながら、スピットは帽子をちょいと直しました。




レベルアップ!
 それからまた、しばらくして…

 ついにえぶも転職可能レベルへと、到達したのでした。








 ゲフェンの街を、ふたりは歩いています。

再びゲフェン
spit:「ギルドはこっちだ。

 場所も知らないのにてくてくと先を行くえぶに笑いながら、スピットは懐かしい魔法士ギルドにえぶを連れて行きます。
spit:「ここがギルドだ。

ギルド前
ebu:「はじめてきました…




spit:「…普通は一回くらい来るべきはずなんだが…*7


 えぶはスピットの話なんか聞いちゃいないようで、ギルドの奥にいた職員に話しかけていました。

 周りを見回すと、他にもノービスの人たちがいっぱいいました。どうやらこの人たちも皆、マジシャンに転職するためにギルドに来ているようでした。
 スピットはえぶがギルド職員と話しているのをそれとなく見ながら、他のノービスを眺めてみます。あれ?と気づきました。
 なぜか皆、ギルド職員に話しかけたあと、妙な紙切れをもらっています。
 よく見ると、別の職員に話しかけているノービスの子たちは、手にその紙切れと、なにやら変な瓶を持っているではないですか。

spit:「なんだ、あれ?

 と、てくてくとえぶもその紙切れをもらってスピットのところへとやってきました。

ebu:「お師さま…魔法士になるのは大変なのですね…
spit:「その紙切れ、なんだ?

ebu:「混合液をつくって、それをちゃんと作れないと、魔法士に転職されてくれないそうです。





お師さま、衝撃の発言!
ebu:「Σ(TпT (お師さま、もぐりですかー!?


「昔は、こんな試験はなかったんですけどね。
 ギルド職員がスピットに向かって話しかけてきました。


「今は昔に比べて冒険者の方々も多くなってきたので、どこのギルドでもこうした簡単な試験をしているのですよ。

spit:「へぇ…

 スピットがマジシャンになった昔には、そんなものはありませんでした。それもそうです。スピットがマジシャンになった頃は、まだ魔法使いなんていう職業は一般的ではなくて、高い攻撃力を持ってはいても、それほど志す人はいなかった職業なのでした。

 そしてその中でもとりわけ、雷魔法を取得する人は少なかったのでした。*8

spit:「時代はかわったねぇ…

 スピットはえぶの手の中の紙切れを見ます。

ebu:「ゼロピー2個、綿毛3個、ミルク1個ですって。あと、フェイヨン水溶液。

spit:「フェイヨン!? ミドカツ王国の端っこから、端っこじゃねぇか!?


ebu:「うぅぅ。

「おじょうさん、お嬢さん」

 えぶにかけられる声がありました。
「フェイヨン水溶液、ありますよ。そこのお兄さんに買ってもらっては?」

 と、そこには商人の女の子の姿がありました。
「おやすくしておきますよ」

ebu:「あ。

 えぶの顔がぱぁっと明るくなりました。
 そのえぶを、じっとスピットは横目で見ます。

ebu:「あぅ…い、いーです。自分で買いに行きます。

「えっ!?」

 商人さんは目を丸くしました。

ご厚意感謝します。 spit:「何事も修行ですな。どうもありがとう。
 てくてくと歩き出したえぶの後ろにつきながら、スピットは言いました。

 ふたりはギルドの外に出ます。
 空は晴天。

spit:「フェイヨンの場所は知ってるか?
ebu:「ポタ屋さん、探します。

spit:「…アホか。

ebu:「はい?

spit:「オマエ、何のためにフェイヨンまで行かされると思ってんだ?
ebu:「なんのため?

spit:「何のために、ルーンミドカツ王国の西の果てから、東の果てまで歩かされると思ってんだ、と。
ebu:「えーと…

spit:「わからなきゃ、歩け。歩いていけ。

ebu:「ええぇっ!? 遠すぎですよー。
 えぶはぶーっと頬をふくらませました。
 スピットはやれやれといった風に口許を曲げて、アークワンドでえぶの頭をこつんと叩きました。

ebu:「いたい…

spit:「昔話をしてやる。
ebu:「なんですか?

spit:「昔は各街に、時空転送サービスっていうサービスがあったんだ。お金を払えば、どこの街にもとばしてくれる、いわば今のポタ屋さんみたいなもんがあったんだ。
ebu:「…で?

spit:「今はない。
ebu:「なぜですか?



 こつっと、スピットはまたアークワンドでえぶを叩きました。

spit:「歩け。歩いていけ。冒険者っていうのは、そう言うモンだ。*9
ebu:「うぅ。
spit:「俺はここで待っててやる。
ebu:「え?ついてきてくれないんですか?
spit:「修行だ。

 えぶは眉を寄せました。
 なんだかよくわからなかったのですが、てくてくと、歩き出すことにしました。まぁ、お師さまついてこないって言ってるし、プロンテラに着いたら、そこからポタしてもらえば…

spit:「純粋な漏電雷魔導士になるって言うなら、その程度のことは軽くやってのけねぇと、なれんぞ。


ebu:「う。

spit:「行って来い。

 スピットはちょいと帽子をあげて、笑いました。


spit:「冒険者に、なりたきゃな。*10











 ゲフェンの街を出ていくえぶの後ろ姿を見送って、スピットは軽くため息を吐きました。

「大変ですねぇ」
 と、かけられた声に笑います。
「ま、今の時代に冒険者はじめるならな」
 スピットは笑います。
 後ろに立っていたのは同じ魔導士、アブドゥーグでした。

「昔は試験なんてありませんでしたしね」
「俺たちの頃はね。でもその分、こうして盾をしてくれる人もいなかったし、臨時公平パーティなんかも、なかったしね」

「私も、当時は殴りマジでしたし…」
「3な、3」
 スピットはけらけらと笑いました。

「うちの娘の見込みは、どうなんですか?」
「いいんじゃない?」

 軽く、スピットは言います。

「ただ、漏電雷魔導士にはさせないから、安心しろよ」
「それを聞いて安心しました」
 心底ほっとした風に、アブ。
「単色マジ、ウィズは今の時代、生き残れませんからね」
「いちおー、俺は属性的には雷念系なんだけどな」
「残念ながら、先日発表された魔法士・魔導士系統分類表には、雷念系統という系統は消えていました…」
「使えないからな」
 スピットは人ごとのようにけらけら。

「えぶはコールドボルトとライトニングボルトを中心に、フロストダイバをあげていって、SP回復向上はあくまでサポート的に上げさせていこうと。典型的な氷雷属性でどうかなと」
「いいんじゃないですか?」
「オマエの娘なら、やっぱ氷系だろ」
「そしてスピの弟子なら、漏電っと」

 ふたりは笑いました。

「きっと、俺たちよりすぐに強くなるぜ」
「同感です」*11










「お師さま、ぱぱ?」

 夕暮れの頃、ふたりはゲフェンは魔法士ギルド前に座り込んでうとうとしてしまっていました。
「ん?」

 かけられた声に、スピットとアブはゆっくりと振り返りました。

spit:「を。
Abd:「わ。

 そしてそこには…


 魔法士に転職した、えぶの姿がありました。

魔法士、えぶ!




ebu:「転職しちゃった。



spit:「おう、何げに、いっちょまえじゃねえか。
Abd:「憂い憂い。

 スピットとアブは笑いました。
 魔法士、えぶはうれしそうに笑います。

ebu:「フェイヨンは遠かったです。
spit:「まぁな。
ebu:「帰りは蝶の羽使っちゃいました。ダメだったですか?
spit:「ポタを使うなと言っただけだ。それはお前の頭で考えたことだから、俺も文句は言わない。
ebu:「ほっ。
Abd:「大変だったろ、えぶ。
ebu:「んー…でも、ちょっと遠いなってくらいで、大変っていうほどでもなかったかも。
spit:「そうさ。

 スピットはちょいと、帽子をつばをあげました。

spit:「これからの魔法士としての修行の旅に比べれば、たいしたことのない旅さ。

ebu:「はいっ。

 えぶは、元気よく、返しました。

Abd:「うれしいだろう、スピ!

 突然、アブが言います。

spit:「あ?
Abd:「念願の、女の子マジだぞ!? しかも、私の娘っ!!

spit:「後者がなければなー。

Abd:「なにっ!?

ebu:「あははは。

 夕焼けが包むゲフェンの街中に、三人の笑い声が響きました。


spit:「っと、そーだ、えぶ。忘れないうちに、渡しとこう。
ebu:「はい?

 ごそごそと、スピットはポケットを探ります。
 そしてそのポケットから、四角いエンブレムを取り出しました。

spit:「ほれ。

 投げ渡されたそれを、えぶは胸に受け取りました。
ebu:「あ…こ、これ…


spit:「ようこそ、新しい仲間。

 スピットはいつもの調子で帽子をあげて、言いました。


spit:「ギルド、Ragnarokへ。



 にやりと笑う魔法士の先輩ふたりに、えぶは元気よく、返しました。

ebu:「はいっ!



ebu:「よろしくお願いしますっ、お師さま!

 ギルド、Ragnarokにまたひとり、新しい仲間が加わったのでした。


*1 くわしくは『街巡り 〜アルベルタ〜』を参照。
*2 ブレイド。初級者冒険者用の剣。攻撃力はあまりないが、精錬が簡単で扱いやすく、一説にはノービス最強の武器。
*3 今回のお話は、Ragnarok Onlineのベータ時代、ベータ2時代、EP1.5のお話がちょっと混じり合います。
 ここで出てくる武器装備レベルはベータ2時代以降に実装されたもの。ある一定のレベルに達しないと、強い武器は装備できないようになったのです。spitがノービスだったのはベータ時代なので、彼はノービス時代、ノービス最強の武器、ツルギを手に、冒険をしていたのでした。
*4 実はspit。魔導士としては異例のVit10というステータスを持っているので、その辺の魔導士よりは防御力が高いのです。
*5 レベルはアブの方が上だが、回避力や防御力のステータスはスピの方が遥かに上。
*6 あとで詳しく話そうと思いますが、Ragnarokの世界では魔法士は何種類かにタイプ別に分類されます。分類のもっとも大きな部分にあるのは、三色ボルト魔法で、炎系のファイヤボルト、氷系のコールドボルト、雷系のライトラングボルトとなっています。このうち、ひとつの系列だけを取っていくのを単色系といい、逆に、二色以上の魔法を覚えていくのを、多色系といいます。ちなみに全色だと(これに土と念が加わる)五色になりますが、あんまり他の二属性を系列に含めたりはしません。
 そしてspitもちょっと言ってますが、単色系ははっきりいって、弱いです。
*7 自分の目指す職業なら、事前にギルドくらいくるような気もするんですが…転職の条件とか聞きに。(ネタバレすると、えぶプレイヤーは別にRagnarok初めてでないので、ある程度の前提知識があるのです)
*8 転職クエストが実装されたのは、ベータ2だか、EP1.5だかから。spitが魔法士になったのはベータ時代なので、こんなクエストはありませんでした。んー、でも、クエスト、やってみたかったかも。
 んでもって、ベータ時代の話ですが、ベータ時代はそれほど魔法士って、いなかったんです。魔法士って、レベルがあげにくかったですし(剣士とかに比べると)、ましてや雷魔法の魔法士っていうと、かなり少なかったんですね。当時は火系の魔法が主力で、属性こそありましたが、火属性に弱いモンスターが多く、雷系はしかもライトニングボルトとサンダーストームの二種類しか魔法がないと言うこともあって、あまりウケはよくなかったのでした。(ちなみに土系魔法なぞ、取る人がいたのかというレベルでしたが)
 でも、派手魔法である雷系は、趣味に走るプレイヤーたちの間では、大人気でした。(範囲魔法は当時からファイヤーボールとサンダーストームがありましたが、派手さではサンダーストームに勝る物はなく、見せ芸として、最高位に位置づけられていたのです)
 だからspitは雷系なんだね、とか、言ってはいけません。ええ、言ってはいけませんとも。
 でも、最近は雷魔法、よく見かけますよね。それはなぜかって事には、また後で。
*9 転送サービスはRO日記の中でも使っている回がありますが、今はありません。なぜなくなったのでしょう?まぁ、いろいろと考えられる事はありますが、僕としては冒険者は歩くものだと思うので、別にそれでもいいんじゃなかろうかと思いますが。
 あとはポタ屋さんとのコミュニケーションを楽しめってとこなのかもしれないですが、この辺はいろいろと議論されることが多いので、あんまりふれません。
*10 冒険者spitとしては、ノービスや初心者冒険者のみんなには、声を大にしていいたい。
 歩くのです。歩けばその先には、冒険が絶対に転がっているのです。ミドカルドの大地は、そういう場所なのです。
 今回、えぶには歩かせるエピソードを書きましたが、僕はこのクエスト、すごくいいクエストだと思うのですよね。なんか、ワープポタルとかに頼らず、ただひたすら歩く。フィールドの西の端から、東の端です。間にはプロンテラもあります。そして砂漠の分かれ道を抜けて、迷いの森を通ります。
 ノービス時代からすれば、大冒険です。こんなクエスト、なかなか楽しめないですよ。ノービスのみなさんには、このクエストを楽しんでもらいたいですね。
 年寄りの愚痴をいうと、昔はRagnarokの画面に表示されるミニマップ。通れるところと通れないところが色分けされていたりはしなかったので、迷いの森では本気で迷って出られなくなり、辻ヒールしてくれたアコライトさんにありがとうって言ったり、同じく迷っていた人と一緒にプロンテラを目指したりしたもんです。
 転送サービスはありましたけどね。高くてノービスでは利用できるようなモンじゃなかったです。
 そーゆーゲーム性は、なくならないで欲しかったなぁと思うんですが、どうでしょう。(とか言いつつ、今のミニマップには頼りまくり。初めて行く場所でも、迷わないしねー。ダンジョンですら)
*11 ちょっといろいろ出てきたので、解説。
 昔は臨時公平パーティ(パーティ内のレベル差が5以内の時、モンスターを倒したときの経験値をパーティ内で公平に分配できるシステムを使って、臨時に公平配分をするパーティのこと)がなかったという話が出ていますが、いや、ないことはなかったです。あったんですが、ベータ時代はこれ、なんかバグってたんですよ。うまく動いてくれなかった。これが実装されたのは、たしかベータ2以降。この時、同時にギルドシステムが導入されたので、パーティ主体のコミュニティから、ギルド主体のコミュニティへと、Ragnarokは変わっていったのです。でも僕はパーティメンバーに向かっての発言が画面にちゃんと表示されるあれが好きだ。(ギルドはされない)
 アブが当時は殴りマジという話をしているが、これはベータ時代。初期のエピソードを見るとわかるように、アブは当時グラディウスとマイトスタッフを持ち、モンスターをひたすら殴るという、アバンギャルドな魔法士だった。というと、色物っぽいが、ベータ時代では結構、ふつうにいた存在。ベータ2では修正がかなり入ったので、殴りマジは絶滅の危機に瀕し、今では少数しか生息が確認されていない。アブも今は違う。(ベータ2になるとき、ステータスの再配分があったので、そのときInt特化に切り替えた)
 それから、単色マジ、ウィズは生き残れないという話。今回のメインだが、これには属性や魔法の効果的な使い方などが関係して来る。
 魔法士プレイヤーのプレイヤースキル、狩りの形態などによるが、現在の一般的なマジシャン、ウィザードの戦い方は、足止め魔法→ボルト系魔法で敵を倒すのが一般的だ。たとえばフロストダイバ→ライトニングボルトや、ファイヤーウァール→ボルト魔法と言った感じだ。
 これはベータ2以降に実装された、詠唱反応モンスター(魔法のターゲットになると、詠唱者に攻撃してくるタイプのモンスター)に対抗するための手段として定着した戦法だが、spitがマジシャンをしていた頃のベータ時代には、このようなモンスターは存在しなかったのである。っていうか、初期の頃のエピソードでspitが狩っている蟹モンスター、バトンも、ベータ時代は詠唱反応なんかしやしませんでした。(今は反応する)
 さらに困った事に、現在は魔法の詠唱後、ディレイと言って魔法を使うことの出来ない時間というのが存在し、このディレイタイムは魔法によってまちまちなのだが、これによって魔法の連打が出来なくなり、単純な攻撃魔法しか持っていない魔法士は、はっきり言って使い物にならなくなったのでした。(ソウルストライクという念系の速攻多弾魔法があるのだが、昔は連打で打てたものが、今ではディレイタイムが長すぎて、撃とうとしているうちに殺されるという)
 そして、単色系(正確には雷念系)の魔導士、spitは現在ではまともに敵と戦えません。雷魔法にも念魔法にも、敵を足止めする魔法はないのです。
 現在一般的な雷系の魔法士は皆、氷魔法を同時に取得します。氷魔法の中にある敵を凍らせる足止め魔法、フロストダイバが、凍結後の敵には雷魔法で200%のダメージを与えることが出来るからです。(これはベータ時代にもすでにありましたが、あまりこの戦法を使う魔法士はいませんでした。ベータ時代のエピソードで、spitとAbdが合体魔法とかいって使っているのが、それ)
 よって、今では一般的な雷系と言えば氷雷系。某大手サイトで魔法士の属性分類を作ってみようという話が出たときには、雷念系という魔法士のカテゴリは、存在していませんでした。
 で、spitの二つ名として有名な、「漏電雷魔導士」ですが、これはベータ時代、SP回復向上というスキルをspitが全く取得していなかったところからついたのですが、今の魔法士はIntによってSPの回復率が変わる仕様になっているので、SP回復向上もあまり高レベルにしなくとも、比較的戦えるようになっているのです。
 このように、spitのスキルは今ではかなり前時代的なので、生粋の漏電雷魔導士(他系のボルト魔法を取らない)は、現在ではものすごーく、使えないキャラクタになります。それでも漏電雷魔導士を目指したいと言う方には、ウィザードになるまでの道のりをあえて紹介すると、転職後はロッダフロッグをひたすら狩り続けてください。LBがLv3くらいになったら、スポアを狩ってください。ここからは、SSをLv5か、7まであげるようにしましょう。SP回復向上も取っておくといいです。で、ひたすら狩って、LBがLv7くらいになったら伊豆Dに行き、2Fで死にものぐるいでマリナとタラフロッグを狩ってください。で、転職できるようになるまで、そこで狩り続けてください。SSが9になる頃には、熊やエギラも狩れるようになりますが、SSでの狩りになるので、効率が非常に悪いです。
 たぶん、3、4ヶ月くらいがんばれば、転職できるようになると思います。
 と、えぶに教えてあげたら、さすがにいやな顔をされました。
 そりゃそうですね。
 最後に追記しておくと、アブは一応、氷雷系のウィザード。氷魔法のすべての他、ライトニングボルト、サンダーストーム、ユピテルサンダー、ロードオブヴァーミリオンも使える。ただしレベルが中途半端なので、あんまり強くない。
 つか、実はギルドRagnarokのマジ、ウィズで一番強いのは間違いなく、焼豚こと、グリル・ポーク。バランスのとれた炎系。(炎系は単色でも足止め魔法の火壁が使えるので、プレイヤースキルが伴えば強い)
 そしてきっと来月には二位はえぶ。