その手紙には、こう書かれていました。
「はじめまして、スピットさま。
わたしはウィザード、アブドゥーグとイブリンの娘、えぶともうします。(お兄ちゃんに会ったことあるみたいなので、信じてもらえると思いますけど…)
*1
突然のお手紙にびっくりしていますでしょうが、ひとつ、お願いがあってこの時代にやってきました」
spit:「…マヂですか。
「わたしは今、プロンテラから、ゲフェンに向かって旅をしています。
わたしは父のあとを継いで、マジシャンの道を歩もうと思うのです。でも、父のような氷魔導士ではなく、スピットさんのような…」
spit:「兄妹そろって、失敬な奴らだ。
そこには、こうかかれていました。
「スピットさんのような…
漏電雷魔導士になりたいんです」
ebu:「あっ!!
ゲフェンの街中。
聞こえた声に、スピットは振り返りました。
ebu:「はじめまして!
spit:「ホントにいたー!?
ebu:「お師さま〜。
spit:「くっつくなー!
えぶは腰に下げた彼女の背丈にはちょっと大きすぎるブレイドをかちゃかちゃ言わせながら、スピットにくっついてきます。
ebu:「お会いしとうございました。あ、お手紙を読んでいただけたんですね!
spit:「ああ、読んだよ。
ebu:「で、そしてここにいるということは、わたしを弟子にしてくれると…
spit:「ああ…
スピットは目をきらきらと輝かせるえぶに向かって、言いました。
spit:「
却下だな。
ebu:「
なぜっ!?
即答のスピットに、えぶは目を丸くします。
スピットは返します。
spit:「魔法士になろうとする者が、たとえノービスとはいえ、ブレイドなんて装備しちゃ
ダメだな。
ebu:「
Σ(TпT (そうなんだ!?*2
ebu:「で、でも、でも。
えぶは言います。
ebu:「お師さまはノービス時代、おうちのツルギを使っていたと聞きましたが…
spit:「あのころと今は、時代が違う。
ふんっとスピットは鼻を鳴らします。
ちなみにツルギという武器は、ノービス最強の武器。
そしてスピットがノービスだった頃はまだ、武器を持つのに装備レベルという最低限のレベルがなければ装備できないという免許制の概念はなかったのでした。
*3
ebu:「うぅぅ。
うつむいてちょっと泣きべそ気味のえぶ。
スピットはちょっとかわいそうになって、言います。
spit:「ま、まぁ…なんだ。せっかくだから、魔法士になるまではつきあってやってもいいぞ。
ebu:「ほんとですかっ!!
ぱぁっと、今度は顔をあげて笑うえぶに、スピットはつぶやきました。
spit:「忙しい子だ…ともあれ…
ebu:「はいっ!
ゲフェン北は魔法士を目指すノービスたちの狩り場として有名でした。
低レベルの敵、ポリンやファブル。ウィローにチョンチョン、ロッタフロッグと、たくさんのモンスターがひしめき、ひとりでも、がんばればたった一日で転職することが可能な狩り場なのでした。
spit:「しかたねぇから、盾してやる。
ebu:「ありがとうございます!
モンスターは攻撃されると、その攻撃した人を攻撃するという習性があります。
それを利用して、盾というのは、先に高レベル者がモンスターを攻撃して、敵の攻撃をすべて自分に向けさせ、低レベル者がひとりでは狩れないようなモンスターを倒すのを手伝ってあげる行為のことをいうのでした。
spit:「えーと…
アークワンドを腰にぶら下げて、スピットは近くにいたモンスターに「あれでいいか」と、
ぐーで
ゴスっ。
ebu:「はぅあ!!
spit:「さぁ、たたけ。
っていうか、それはここらで
一番強い敵です。
spit:「む。
ebu:「倒すだけで日が暮れます〜。
spit:「け。
spit:「
ブレイド、弱いな。
ebu:「Σ(TпT (なんか、根に持ってる!?
spit:「これはナシ。ソウルストライクっと。
スピットの魔法に、かたつむりモンスター、アンバーナイトがぽんっと爆発しました。
ebu:「あぅ〜、べとべと〜。
spit:「サービスしとけ。
ebu:「Σ(TпTii (なにがですか、お師さま!?
とびちったアンバーナイトのべとべとする液体をふきふきしているえぶに向かって、スピット。
spit:「ウィローとかどうだ?
ebu:「たぶん、いけます。
spit:「しばらくはウィローかるか。
かったるいなぁと思いながらも、スピットは近くにいたウィローを片っ端から殴りはじめました。
ebu:「お師さま!多すぎです!
spit:「さくっと倒せ。
ほったらかして行くのもよかったのですが…なんとなく、スピットはえぶをつれて、ゲフェン北を彼女のレベル上げのために一緒に歩いてあげていたのでした。
*4
小一時間ばかりたった頃でしょうか。
spit:「ん?
ゲフェン北の森の中。
スピットは届いた電波にはっとしました。
ebu:「どうしました?
spit:「まずい…奴が来る…
ebu:「? 誰ですか?
Abd:「あれ、デート中?
spit:「…チガウ。
ebu:「ぱぱー。
Abd:「( ̄w ̄iii
spit:「あー…説明が面倒くさいな…
ebu:「あ、ぱぱは知らないんですね。
Abd:「だれ?
spit:「お前の
娘だ。
ebu:「えぶです。ぱぱ。
Abd:「そうか…
アブはこくりとうなずき、言いました。
Abd:「憂いやつよのぅ。
spit:「って。
三 ゜д゜)!!。
順応度、高すぎ!!
Abd:「憂い憂い。
にこにこしながらえぶの頭をなでるアブに、スピットはちょっと思いました。
spit:「(こいつはきっと、腹のうちになにかをたくらんでいる!?
spit:「
…死ぬれ。
ebu:「はいっ!?
Abd:「憂い憂い。
spit:「かわされたー。
ebu:「お師さま、ひどいです。
spit:「ふんっ。
Abd:「そうか。スピに盾してもらいながら、レベル上げか。
ebu:「そうです。
かくかくしかじかと事情を説明すると、すっくとアブは立ち上がりました。
Abd:「そういうことならパパ、がんばっちゃうぞー!
と、だだっと走っていくと、近くにいたロッカーを叩いて戻ってきます。
Abd:「さぁ、えぶ!がんばれ!!
spit:「ってゆーか、殴られまくってるぞ…
ばこっばこっと殴られるアブ。
Abd:「だいじょうぶさー! 次だー。
…
パパ、がんがれ!
でも死ぬのは
時間の問題だが。
*5
そして数分後…
Abd:「あ、あとは任せた…スピ…がく。
ebu:「ぱぱー!
spit:「何しに来たんだ、オマエ…
スピットとえぶは狩りを続けます。
そんな中での、小休止のとき…
ebu:「ところでお師さま?
spit:「ん?
ebu:「わたしは雷魔導士になりたいのですが、雷魔導士とは、どーなのでしょう?
スピットはえぶの問いに、すぱっと答えました。
spit:「…
使えない。
ebu:「Σ(TпT (そうなんですか!?
spit:「というより、今時、単色属性マジ、ウィズは生きのこれねーよ。
ebu:「はぁ…
えぶはよくわからないといった風です。
spit:「…さてはオマエ、魔法士になりたいという割には、あんまり勉強してねぇな?
ebu:「ぅあ…
spit:「オマエは、親の力を受け継いで、氷魔法を覚えていけよ。雷魔法よりはよっぽどつかえるぞ。
ebu:「うぅ…お師さままでそういうことをいうのですね…
spit:「真面目に強いマジ、ウィズを目指すならな。
言って、よいしょっとスピットは立ち上がります。
*6
spit:「きゅーけー終わり。
ebu:「あ、お師さま…
立ち上がったスピットに、えぶが言いました。
ebu:「お願いがあるのですが…
spit:「ん?
えぶは言いました。
ebu:「わたしは、お師さまの雷魔法を見たことがないのです。あの…よかったらなんかひとつ…
spit:「…漏電雷魔導士になっても、いいことなんかねぇぞ。
そう言って、スピットは帽子のつばをちょいとあげて口許を曲げました。
腰のアークワンドを引き抜きます。
ぶんっと勢いよくそれを振るうと、巨大な魔法陣が大地の上に描かれました。
spit:「よくみとけ!
風が舞い上がります。
巻き起こる風に、空気の中のわずかな電気が、ぴりぴりと小さな雷を生み出します。
ebu:「おおっ!
えぶは目をらんらんと輝かせました。
その魔法は、えぶもよく知っています。
その魔法こそ、最強の雷魔法のそれなのでした。
spit:「漏電雷魔導士になっても、いいことなんかねぇから、やめときな!
スピットの呪文が、最後を結びました。
だからえぶはやっぱり心に決めたのでした。
決めちゃったのでした。
ebu:「お師さま!やっぱり私は、漏電雷魔導士になります!!
spit:「やめとけ。
笑いながら、スピットは帽子をちょいと直しました。
それからまた、しばらくして…
ついにえぶも転職可能レベルへと、到達したのでした。
ゲフェンの街を、ふたりは歩いています。
spit:「ギルドはこっちだ。
場所も知らないのにてくてくと先を行くえぶに笑いながら、スピットは懐かしい魔法士ギルドにえぶを連れて行きます。
spit:「ここがギルドだ。
ebu:「はじめてきました…
spit:「…普通は一回くらい来るべきはずなんだが…
*7
えぶはスピットの話なんか聞いちゃいないようで、ギルドの奥にいた職員に話しかけていました。
周りを見回すと、他にもノービスの人たちがいっぱいいました。どうやらこの人たちも皆、マジシャンに転職するためにギルドに来ているようでした。
スピットはえぶがギルド職員と話しているのをそれとなく見ながら、他のノービスを眺めてみます。あれ?と気づきました。
なぜか皆、ギルド職員に話しかけたあと、妙な紙切れをもらっています。
よく見ると、別の職員に話しかけているノービスの子たちは、手にその紙切れと、なにやら変な瓶を持っているではないですか。
spit:「なんだ、あれ?
と、てくてくとえぶもその紙切れをもらってスピットのところへとやってきました。
ebu:「お師さま…魔法士になるのは大変なのですね…
spit:「その紙切れ、なんだ?
ebu:「混合液をつくって、それをちゃんと作れないと、魔法士に転職されてくれないそうです。
ebu:「Σ(TпT (お師さま、もぐりですかー!?
「昔は、こんな試験はなかったんですけどね。
ギルド職員がスピットに向かって話しかけてきました。
「今は昔に比べて冒険者の方々も多くなってきたので、どこのギルドでもこうした簡単な試験をしているのですよ。
spit:「へぇ…
スピットがマジシャンになった昔には、そんなものはありませんでした。それもそうです。スピットがマジシャンになった頃は、まだ魔法使いなんていう職業は一般的ではなくて、高い攻撃力を持ってはいても、それほど志す人はいなかった職業なのでした。
そしてその中でもとりわけ、雷魔法を取得する人は少なかったのでした。
*8
spit:「時代はかわったねぇ…
スピットはえぶの手の中の紙切れを見ます。
ebu:「ゼロピー2個、綿毛3個、ミルク1個ですって。あと、フェイヨン水溶液。
spit:「フェイヨン!? ミドカツ王国の端っこから、端っこじゃねぇか!?
ebu:「うぅぅ。
「おじょうさん、お嬢さん」
えぶにかけられる声がありました。
「フェイヨン水溶液、ありますよ。そこのお兄さんに買ってもらっては?」
と、そこには商人の女の子の姿がありました。
「おやすくしておきますよ」
ebu:「あ。
えぶの顔がぱぁっと明るくなりました。
そのえぶを、じっとスピットは横目で見ます。
ebu:「あぅ…い、いーです。自分で買いに行きます。
「えっ!?」
商人さんは目を丸くしました。
spit:「何事も修行ですな。どうもありがとう。
てくてくと歩き出したえぶの後ろにつきながら、スピットは言いました。
ふたりはギルドの外に出ます。
空は晴天。
spit:「フェイヨンの場所は知ってるか?
ebu:「ポタ屋さん、探します。
spit:「…アホか。
ebu:「はい?
spit:「オマエ、何のためにフェイヨンまで行かされると思ってんだ?
ebu:「なんのため?
spit:「何のために、ルーンミドカツ王国の西の果てから、東の果てまで歩かされると思ってんだ、と。
ebu:「えーと…
spit:「わからなきゃ、歩け。歩いていけ。
ebu:「ええぇっ!? 遠すぎですよー。
えぶはぶーっと頬をふくらませました。
スピットはやれやれといった風に口許を曲げて、アークワンドでえぶの頭をこつんと叩きました。
ebu:「いたい…
spit:「昔話をしてやる。
ebu:「なんですか?
spit:「昔は各街に、時空転送サービスっていうサービスがあったんだ。お金を払えば、どこの街にもとばしてくれる、いわば今のポタ屋さんみたいなもんがあったんだ。
ebu:「…で?
spit:「今はない。
ebu:「なぜですか?
こつっと、スピットはまたアークワンドでえぶを叩きました。
spit:「歩け。歩いていけ。冒険者っていうのは、そう言うモンだ。
*9
ebu:「うぅ。
spit:「俺はここで待っててやる。
ebu:「え?ついてきてくれないんですか?
spit:「修行だ。
えぶは眉を寄せました。
なんだかよくわからなかったのですが、てくてくと、歩き出すことにしました。まぁ、お師さまついてこないって言ってるし、プロンテラに着いたら、そこからポタしてもらえば…
spit:「純粋な漏電雷魔導士になるって言うなら、その程度のことは軽くやってのけねぇと、なれんぞ。
ebu:「う。
spit:「行って来い。
スピットはちょいと帽子をあげて、笑いました。
spit:「冒険者に、なりたきゃな。
*10
ゲフェンの街を出ていくえぶの後ろ姿を見送って、スピットは軽くため息を吐きました。
「大変ですねぇ」
と、かけられた声に笑います。
「ま、今の時代に冒険者はじめるならな」
スピットは笑います。
後ろに立っていたのは同じ魔導士、アブドゥーグでした。
「昔は試験なんてありませんでしたしね」
「俺たちの頃はね。でもその分、こうして盾をしてくれる人もいなかったし、臨時公平パーティなんかも、なかったしね」
「私も、当時は殴りマジでしたし…」
「3な、3」
スピットはけらけらと笑いました。
「うちの娘の見込みは、どうなんですか?」
「いいんじゃない?」
軽く、スピットは言います。
「ただ、漏電雷魔導士にはさせないから、安心しろよ」
「それを聞いて安心しました」
心底ほっとした風に、アブ。
「単色マジ、ウィズは今の時代、生き残れませんからね」
「いちおー、俺は属性的には雷念系なんだけどな」
「残念ながら、先日発表された魔法士・魔導士系統分類表には、雷念系統という系統は消えていました…」
「使えないからな」
スピットは人ごとのようにけらけら。
「えぶはコールドボルトとライトニングボルトを中心に、フロストダイバをあげていって、SP回復向上はあくまでサポート的に上げさせていこうと。典型的な氷雷属性でどうかなと」
「いいんじゃないですか?」
「オマエの娘なら、やっぱ氷系だろ」
「そしてスピの弟子なら、漏電っと」
ふたりは笑いました。
「きっと、俺たちよりすぐに強くなるぜ」
「同感です」
*11
「お師さま、ぱぱ?」
夕暮れの頃、ふたりはゲフェンは魔法士ギルド前に座り込んでうとうとしてしまっていました。
「ん?」
かけられた声に、スピットとアブはゆっくりと振り返りました。
spit:「を。
Abd:「わ。
そしてそこには…
魔法士に転職した、えぶの姿がありました。
ebu:「転職しちゃった。
spit:「おう、何げに、いっちょまえじゃねえか。
Abd:「憂い憂い。
スピットとアブは笑いました。
魔法士、えぶはうれしそうに笑います。
ebu:「フェイヨンは遠かったです。
spit:「まぁな。
ebu:「帰りは蝶の羽使っちゃいました。ダメだったですか?
spit:「ポタを使うなと言っただけだ。それはお前の頭で考えたことだから、俺も文句は言わない。
ebu:「ほっ。
Abd:「大変だったろ、えぶ。
ebu:「んー…でも、ちょっと遠いなってくらいで、大変っていうほどでもなかったかも。
spit:「そうさ。
スピットはちょいと、帽子をつばをあげました。
spit:「これからの魔法士としての修行の旅に比べれば、たいしたことのない旅さ。
ebu:「はいっ。
えぶは、元気よく、返しました。
Abd:「うれしいだろう、スピ!
突然、アブが言います。
spit:「あ?
Abd:「念願の、女の子マジだぞ!? しかも、私の娘っ!!
spit:「後者がなければなー。
Abd:「なにっ!?
ebu:「あははは。
夕焼けが包むゲフェンの街中に、三人の笑い声が響きました。
spit:「っと、そーだ、えぶ。忘れないうちに、渡しとこう。
ebu:「はい?
ごそごそと、スピットはポケットを探ります。
そしてそのポケットから、四角いエンブレムを取り出しました。
spit:「ほれ。
投げ渡されたそれを、えぶは胸に受け取りました。
ebu:「あ…こ、これ…
spit:「ようこそ、新しい仲間。
スピットはいつもの調子で帽子をあげて、言いました。
spit:「ギルド、Ragnarokへ。
にやりと笑う魔法士の先輩ふたりに、えぶは元気よく、返しました。
ebu:「はいっ!
ebu:「よろしくお願いしますっ、お師さま!
ギルド、Ragnarokにまたひとり、新しい仲間が加わったのでした。