rukino:「え、エンジェリンなんか、嫌いだ…
*2
ぐずぐずと鼻をすすりながらも、ルキノはプロンテラ西から、赤芋峠を目指します。
赤芋峠とは、プロンテラとアルデバランの間にある、ミョルニール山脈の峠のことでした。
ここには赤芋虫こと、アルギオペというモンスターが多く存在し、マジシャンたちの格好の狩り場だったのです。
*3
そして、ルキノもたぶんにもれず、そのマジシャンらしく、赤芋虫でレベル上げを…
出来てません。
rukino:「ううぅぅ…
プロンテラ西の復活地点で、ルキノはぐずぐずと鼻をすすりすすり。
rukino:「とりあえず、気分転換に、ベンチでもいこう…
てくてく、ルキノはベンチに向かいました。
rukino:「ちわー。
putiLeona:「こんにちわー。
Ridgel:「ややや!? 隠し子がッ!?
*4
rukino:「…ぷちが、リジェさんの隠し子?
putiLeona:「ぱぱー。
Ridgel:「うをー!? RO日記ではこのネタは出ないのかと思いきやー!?
*5
rukino:「フ…
にやり、ルキノ。
Ridgel:「悪魔の微笑みだー!?
rukino:「何故っ!?
putiLeona:「ルキノより、ぷちの方がかわいいから。
rukino:「ぷち、意味がわかりません…
*6
さて、しばらく談笑してSPも回復したルキノ。
すっくと立ち上がると、
rukino:「じゃー、狩りに行ってくるー。
頭の帽子をなおして言いました。
putiLeona:「ルキノ、帽子似合わないー。
rukino:「しょうがないじゃんかー。
むすりとしたルキノに、ぷちはけらけらと笑いました。
*7
リジェルさんが続きます。
Ridgel:「あ、なんでしたら、壁でもしますぞ?
rukino:「あー、いーよ。出来るだけ、自力で強くなってみる約束なのだよ。
むんっと、胸を張るルキノ。
rukino:「試しに、時計塔にでも行って、カビでも焼いてみるよー。
Ridgel:「カビ!?強敵ですぞ!?
*8
rukino:「なんとかなんべー。
と、てくてく。
Ridgel:「そう…それが…
rukino:「皆の期待を一心にせおって、がんばれ私っ!
期待のベクトルが
違うトコ向いてますか?
そして、時計塔。
rukino:「まずい…
rukino:「袋小路に…
しかもSPが…
無論、赤。
rukino:「うわああぁぁーん。
結果は、言うまでもなく。
*9
さて、ルキノの復活地点は、今度は変わって、時計塔の目の前。アルデバランです。
時計塔入り口のすぐ目の前でセーブが出来るため、すぐにでも狩りに出られるこの場所でセーブをしておいたのですが…
rukino:「…どうやって帰ろう。
プロンテラまでの道の間には、赤芋峠があります。
まさに、
行きはよいよい帰りは怖い!
rukino:「いけばわかるさー!!
数秒後の未来も見えるさ!?*10
rukino:「ま…まけるかー!再度、あたーっく!!
少女は、己の
限界を知った…
*11
アルデバラン。
街の中心に巨大な時計塔が建つ、水路の街。
ルキノはその橋のたもとで、ぼーっと揺れる水面を見つめていました。
すんと、鼻をすすります。
がんばってレベル上げをしようと、マジシャンのみんなが戦うという、赤芋虫とも戦ってみました。
動きが遅くて倒しやすいという、カビこと、パンクとも戦ってみました。
まだレベルが低すぎるのかなぁと、カマキリモンスター、マンティスとも戦ってみました。
すんと、鼻をすすります。
でも、どの敵も倒せませんでした。
せっかく、ファイヤーウォールという、マジシャンの誰もが薦めるとても強い魔法を、10レベルまで一気にマスターして、みんながびっくりするくらいに強くなって見せようとしてたのに…
ルキノは、ぼーっと水面を見つめていました。
はやく、強くなりたい。
ただ、それだけでした。
ひとりの力で、世界中を巡る旅が出来るくらいに強くなって…そして、あの魔導士を越えるくらいに強くなって…
みんなが、びっくりするくらいに強くなって…
すんと、ルキノは鼻をすすりました。
強くなりたいんだ。
ただ、それだけ。
弱い自分。
ちょっとモンスターに追いかけられただけで逃げまどい、ちょっと攻撃を受けただけで動けなくなってしまって…情けない自分。弱い自分。
好きでやられてるわけじゃない。
楽しくて、倒れてる訳じゃない。
私だって、強くなりたいんだ。
強く、強く、早く、誰よりも強く、なりたいんだ。
ぎゅっと瞳を閉じたルキノの背中に向かって、声をかける人がいました。
「なにしてんだ、おまえ。
rukino:「うぉ!?
あわてて振り返ると、そこには、あのベンチにいつも座っている、翡翠色の髪の魔導士の姿がありました。
rukino:「なっ、何って、レベル上げだー!わるいかー!!
spit:「そーか、がんばれ。
言って、スピットはよいしょと壁際に座り込みました。
rukino:「…なんだよ。
spit:「いや、ベンチにいたら、飛ばされたんでな。仕方がなく、歩いて帰ろうかと…で、お前がいたんで、声をかけて、足を止めてみた。
rukino:「ベンチ、カエレっ!
spit:「どこで何をしようと、俺の勝手だねー。ほれ、レベル上げにでも行ってこいや。
rukino:「むおー!みてろー!!
アルデバランの街を流れる水路の水面は、変わらずに揺れていました。
小一時間程度の時間で、それが変わり様はずもありません。
スピットはそっと片目を開けて、そこを見ました。
rukino:「…ううぅ。
ルキノはぐすりと鼻をすすります。
rukino:「うるさいなッ。漏電雷魔導士なんかに、言われたくないやっ。
spit:「レベルなら、俺の方が2倍くらい上だ、ターコ。
rukino:「ベンチ、帰れ!
吐き捨てるようにした言った彼女の背中に、スピットは帽子のつばをおろしながら言いました。
spit:「アルデバランは、パーティ死んでるし、ギルドメンバーも今日は冒険してないみたいだからな。
rukino:「暇人めっ。
spit:「んーにゃ。
帽子の下で、スピットは軽く笑います。
spit:「たまにはこうしてぼーっとするのもいいもんだ。
時計塔の鐘の音が、時を告げていました。
spit:「連中と冒険するのも楽しいけどな。こうして、ぼーっとするのもまた、楽しい。
rukino:「どうせ、ひとりじゃレベル上げ出来ないからじゃん。
spit:「あー、それもあるかも。
けらけらとスピットは笑いました。
spit:「お前、ファイヤーウォールあるんだっけ?
rukino:「あるよ。へっぽことは違うもん。
spit:「フロストダイバもあったな…
rukino:「念魔法以外は、全部使える。
spit:「そりゃ、優秀だ。俺とは、雲泥の差だな。月とすっぽんとでも、言ってやろう。
rukino:「何がいいたいのさ。
spit:「別に。
スピットは帽子のつばで顔を隠したまま、壁により掛かりました。
肩越しに振り向いて、ルキノはその姿に口を曲げます。ちょっとむかっと来ました。そりゃ、自分と比べれば、彼は2倍は大げさとしても、ずっとずっとレベルは上です。マジシャンではなく、ウィザードですし、自分が一撃で倒されてしまうような敵の攻撃を食らっても、そう簡単には倒れません。
でも、使える魔法は風と念の魔法だけ。
同じレベルになれば、絶対に自分の方が強くなれるのに違いありません。
ルキノはちょっとむかっと来ました。
ただレベルが自分より上で、ちょっと強いからって、余裕そうなその姿に、ちょっとむかっと来ました。
ぷいっと、ルキノは視線を外すと、再び揺れる水面を見つめました。
「俺は、マジシャンを、半年以上やってたもんだ」
背中の向こうから、声が聞こえました。
「長かったな…俺のマジシャン時代…」
「…風と念魔法しか使えない、雑魚だからでしょ」
風魔法と念魔法しか使えないということは、敵を足止めする魔法が何もないという事です。
もともと、体力のない魔法使いです。攻撃を受けてしまえば、魔法の詠唱も止められてしまいます。多くの魔法使いは足止め魔法を駆使して敵を止め、強力なボルト魔法でとどめを刺すという戦い方をします。
しかし、彼にはその足止め魔法が、ただのひとつもありませんでした。
「だな」
それをわかって、スピットは笑います。
それは、ひとりで戦うことすらままならいということを意味します。強い強いと言われる魔導士たちの、強さの根本すらもないということを、意味するのです。
「でも、俺はすっぽんだからな」
スピットは帽子の下で笑いながら、続けました。
「すっぽんは、しぶといんだ。弱いかも知れないが、しぶとく、長く、ずっと冒険続けてる。気がつけば、いつの間にかギルマスなんかやっていて、しかも、ウィザードになってたりする」
「だからなんだよ」
「いや…」
スピットはふぅと軽く息を吐いて言いました。
「何を急ぐことがあるのかと、な」
はやく、強くなりたい。
ただ、それだけでした。
「…強くなろうとして、何か、悪いかよっ」
「強くなりたい…ねぇ」
「そうだよ」
水面を見つめたまま、彼女は言います。
「私だって、早く強くなって、いろんなところに行きたいんだ。すごく強い敵を倒す力とか、みんなを守る力とか、そういうのが欲しいんだ」
強くなりたい。
こんな自分は、嫌だ。
「みんながびっくりするくらいに、強くなりたいんだ」
揺れる水面に向かって、彼女は言葉を続けていました。
「弱い自分は、嫌なんだ」
好きでやられてるわけじゃない。
楽しくて、倒れてる訳じゃない。
「ちょっとモンスターに追いかけられただけで逃げなくちゃいけない自分とか、ちょっと攻撃を受けただけでやられちゃう自分とかは、情けない自分とかは、弱い自分とかは、早くどっかにやっちゃいたいんだ!」
強くなりたいんだ。
強く、強く、早く、誰よりも強く、なりたいんだ。
ただ、それだけなんだ。
「そう」
スピットの軽い声が、耳に届きました。
「んで?」
軽い物言いのまま、スピットは帽子の下の口を動かして、彼女の背中に向かって聞きました。
「強くなって、どーすんの?」
「どう…って…」
「お前の冒険の目的は、強くなることか。そーか。そんじゃあ、仕方がねぇな。強くなれよ。誰よりも強くなれよ。弱音なんか吐くなよ。誰にもあたるなよ。黙々と戦って、強くなっていきゃーいいさ。別に、ベンチに遊びに来なくてもいいぞ。その帽子も、捨てちまえよ。サークレットなんか、魔法防御もついてお得だぞ?精錬すれば、最強の防具になる。そうしろ。似合わない帽子なんざ、かぶる必要はねぇよ」
肩越しに振り向いた先、魔導士は帽子のつばに顔を半分隠したまま、続けています。
ゆっくりと、でも、確かに動く口が、言葉を紡ぎ出しました。
「帽子、返せ」
ぐっと、ルキノは帽子に手をかけました。
そして立ち上がり、彼に向かって歩み寄ります。握りしめた帽子を、赤い髪の頭から、剥ぐようにして左手にとった帽子を、それを、叩きつけてやろうと、彼の前に立ちます。
こんなもの、要らない。
どうせ似合わないし、なんの役にも立たないし、冒険者になって、始めて貰ったものだけど、こんなものはいらない。
「返してくれんの?」
「…ほしけりゃ返すよ!こんなもん、いるかっ!」
「オメー、レベル、いくつになった?」
「関係ないじゃんか!」
「赤芋、一匹でも、倒したことあるか?」
「バカにすんな!そこまで弱くない!!」
「そーか」
ちょいと帽子のつばを上げて、スピットは軽く息を吐き出しながら、笑いました。
それは、ちょっと、苦笑するような、自嘲するような、そんな感じでした。
「俺は、このレベルになっても、ひとりで赤芋狩ったことがねぇ」
ルキノは、叩きつけようとした左手を止めました。
言ってることが、よくはわかりませんでした。
彼は笑う口許をそのままに、続けていました。
「まー、もともと、ひとりで狩りに行くこともあんまりねーからかも知れないが、赤芋とサシでやって、勝った記憶って、ねーな。今度、セイフティウォール全開でやってみるか…」
「な…何が言いたいわけさ」
「いや、赤芋倒したことがあるんなら、あれだろ」
よいしょと、スピットはその場に座り直して笑いました。
「お前、少なくとも、俺よりも、もうつえぇじゃん」
アルデバランの街を流れる水路の水面は、変わらずに揺れていました。
小一時間程度の時間で、それが変わり様はずもありません。
スピットは軽く息を吐き出すと、ちょいと横を見ました。
赤い髪が、優しく風に揺れています。
そして、その上に、ちょこんと乗っているのは、彼女にはちょっと似合わない、帽子です。
「…あー、そうだ。お前に、これやるよ」
ごそごそとバックの中から、スピットは一枚のカードを取り出しました。「ほれ」と、そのカードを彼女に突き出します。
「…なにこれ?」
「エルダーウィローカード。帽子に刺せば、魔力が上げられる。魔力が上がれば、魔法攻撃力が上がるからな。レベルの低いお前の方が、俺より効果があるだろ」
*12
「高いんじゃないの?これ」
「バカ者。ウィザードがマジシャンを助けてやるのは、当然のことだ」
ふんっと鼻を鳴らすスピットに、ルキノは軽く笑いました。
そして、
「あ、ありがとぅ」
ぽつりと、呟きました。
「…出来の悪い弟子を持つと、苦労する」
「弟子ってゆうな」
「もうちょっと、がんばってみよーかなぁと、ちょっと、思う」
「おー、蟻の巣でもいって、地味にレベル上げしてこい」
「帽子、似合わないから、エルダカード、サクレに刺していい?」
「んなら、カエセ」
てくてく。
ルキノはプロンテラから南に向かって歩いています。
プロンテラへのポタにスピットと乗り、そして今、てくてく、プロンテラから南、ソクラド砂漠を、ルキノはひとり歩いています。
行き先は、蟻の巣こと、あり地獄ダンジョン。
ここにいるモンスターは、赤芋峠と比べれば、経験値もあまり良くないです。
ばりばりレベルを上げようなんて考えからは、決して、この場所を狩り場に選ぶことはなかったでしょう。
でも、今の自分のレベルと魔法の力をちゃんと計算してみると、この場所がちょうどなのかも知れないと、ルキノは思っていました。
強くなりたい。
それは今も変わりません。
でも、周りのみんなにあわせて急ぐこともないのかなと、ルキノはダンジョンに足を踏み入れました。
rukino:「いよーし、狩るぞー!
ぐっと握りこぶし。
rukino:「質より、量で勝負だー!
唱える魔法は、ファイヤーボルト。
炎の矢が、あり地獄ダンジョンに住むモンスター、ビタタを打ち抜きました。ビタタはこのあり地獄ダンジョンでは、中レベルのモンスターです。このビタタが、一撃で倒せれば、ここでは十分に狩りが…
rukino:「おー、倒せるじゃん。
ってゆーか。
rukino:「んに?
ってゆーか。
rukino:「なんか、カードでたぞ?
かなり、マテ。
それは、すべての魔導士垂涎のカード。
ビタタカード。
聖職者の、回復魔法、ヒールLv1を使うことが出来るようになる、
数百万zもの価値のあるカードです!
rukino:「をー。初カード。
小躍りするルキノは、ともかくカードをバックにしまうと、狩りを続けたのでした…
夕暮れのベンチ。
とことこ、向こうから歩いてくる赤い髪に、スピットは顔を向けました。
spit:「お、帰ってきたな。
appi:「あ、ルキノちゃん。こんばんわ。
rukino:「ばんー。
泥だらけの顔で笑う彼女に、スピットも笑います。
spit:「レベル上がったか?
rukino:「1、あげた。
spit:「じゃあ、あと2ヶ月あったら、俺が抜かれるな…
rukino:「眼中にないよ?
spit:「死ね。お前は死ね。死にまくって、レベル上げんな。
appi:「あはは。
笑い合うベンチ前の仲間たちに、ルキノも笑いました。
そして、
rukino:「あ、そーだ。
ごそごそと、バックをあさりました。
rukino:「エルダーウィローカードの、お礼。
spit:「
ぐぼあっ!?
手渡されたカードに、ぱたりと倒れこむスピット。
appi:「と、どうしたのですか?
心配そうに覗き込むアピの耳に、スピットのうわごとのような声が届いていました。
spit:「バカな…俺が3ヶ月以上こもっても出なかったビタタカードが、なんでこんな小娘如きが、こもったその日に、ぽろっと出すんだ…不条理だ…不条理すぎる…世の中、間違ってる…これは夢だ…
*13
appi:「あ、ビタタカードげっとですかー。おめでとうございますー。
rukino:「?
appi:「?
ふたりはちょいと、小首を傾げ合いました。
spit:「ボクノドリョクッテ、ナニ…ナンダロネ…