studio Odyssey



右も左も冒険者の街で。




 今日も今日とて、プロンテラの空は青く晴れ渡っていました。

 そんなわけで、いつもと同じく、てくてくとベンチに向かうスピット。
 ベンチには、いつもと同じに、みんながいて…


merrow:「あ、スピさん、きました。

Rove:「よかったですね、スピさんにあえて。


spit:「何が?

 と、ベンチのいつもの位置に座るスピット。



Rove:ターゲット、ロックオン!!

ナンパモード、おーん!

makie:「??


 ベンチ前にいたノービスの女の子が、小首を傾げていました。



右も左も冒険者の街で。


 さて。

 ともあれ、ベンチ。

 その辺は、いつものこと。

 そのノービスの女の子が、「ハテ?」と小首を傾げていようといまいと、そこは、ベンチメンバーです。


ナンパなんてしませんよ!




 スピットが保身に走ってみたり。


即





 無駄なことだったり。



 ノービスの彼女が、アーチャーになりたいと、メロウや、零等にいろいろ質問したりなんだりしていると、ぷらりリジェルさんがやってきて…


タイミング良すぎ




 壁とか言われたり。


Ridgel:「と、いうより、何がなにやらさっぱりわからないのですが…
spit:「安心してよし。



spit:俺もわからん。


 ダメじゃん。


 と、メロウが言いました。


merrow:「こちらのノービスさん、初心者さんだそうで、アーチャーになるにはどうすればいいですかと質問されてきたのです。

Ridgel:「ほうほう。
spit:「初心者じゃないノービスってのが、アレだが。
reira:「いあ…それは今、珍しいことじゃないし…

 ノービス、つまり初心者冒険者であっても、既に兄や姉が冒険者をしていて、何も知らない状態から冒険者をはじめるという事は、最近では希なのでした。
 ノービスと言えども、スピットたちなんかより、ずっとずっといい装備を持っている冒険者も、少なくありません。*1

 ところが、今、このベンチ前にいるノービスの彼女は、本当に初心者冒険者さんだったのです。

Ridgel:「で、お名前はなんというのです?

 リジェルさんが聞くと、彼女は言いました。

makie:「槇恵と申します。はじめまして。

 ぺこり。
 それに、メロウが続きます。

merrow:「なんでも、フェイヨンからプロンテラまで、冒険のイロハを教わりに歩いてきて、ベンチにたどり着いたそうです。
spit:「ほぅ。

 唸って彼女を見たスピットに向かって、槇恵さんは言いました。

makie:「気がついたら、フェイヨンというところにいまして…何をどうすればいいのか、わからなくて…


Ridgel:「それで、プロンテラに来て、ベンチに来ましたか…
reira:「あー…













Ridgel:reira:人生最大の、選択のミスですね。


spit:「なんで俺の方を見て言うの!?

makie:「?



 あってると思います。*2











merrow:「そんなわけで、アーチャーについてのいろいろな事は、一通り教えました。

 程なくして、メロウが言いました。

reira:「あとは、レベルをあげながら考えていくしかないかなぁ。
makie:「ありがとうございます!

 ぺこり、槇恵さんは手にしたメモを握りしめて頭を下げます。

makie:「がんばります!

spit:「うむ。

 腕を組み、大仰にうなずくのはスピット。
 そしてスピットはちょいと槇恵さんを見て、聞きました。

spit:「時に、槇恵さんは…
makie:「はい?



spit:『プロンテラベンチ』というのを、ご存じ?



makie:



Ridgel:「ああぁ!?
spit:「おお!!


Ridgel:「ベンチを知らずに声を掛けたのですね…
spit:「よーし、わかった!!

 ぎゅっと拳を握りしめ、スピットは立ち上がりました。*3


spit:「では、フェイー!!
makie:「はい?

reira:「水武器でエルダかな。
merrow:「ですかね。*4


makie:「なにをするんです?

誰でも巻き込み、冒険しますよ


spit:「講習のあとは、実技ですよ!


Ridgel:「まぁ、暇なんですね。みんな。
spit:「ともいう。

Grill:「本当の初心者さん見るのなんか、久々だしネー。



makie:「はい?


 そんなわけで。





戻ってきました




 フェイヨン。


spit:「槇恵さん、Lvあげの回!


spit:「迷子札だすぞー。
Ridgel:「迷子札くださいー。

makie:「迷子札ってなんですか?
reira:「パーティのことです。
merrow:「パーティだと、どこにいるかわかるので。*5


spit:「では、いざ、エルダ狩り!


 そして、フェイヨン東マップへと、一行はくりだしました。




merrow:「では、槇恵さんは、この武器を使って、リジェルさんが連れてくる敵を叩いてください。
makie:「がんばります。
Grill:「じゃ、俺っチはQM係かね。*6

spit:「傍観。
reira:「同じく。

Ridgel:「ぷーろぼっくー!


merrow:オーバートラスト!!

spit:「おお!?


赤くなると、通常の3倍の…(嘘

merrow:「そして、アドレナリンラッシュ!!

spit:「今気づいた!

Ridgel:「何がです?


spit:「メロウが、BSになってる!!*7

Grill:「おそっ!?
reira:「私もハンターになってたりする。


Ridgel:「…何話飛ばしているのですか?
spit:「なにがだ。



 そういう事を言う人は嫌いです。*8



すごい勢いであがってます…


 そんな訳で、がしがし狩ります。


 もっとも、がしがしも何も、中の下レベルの敵とはいえ、エルダーウィローをノービスで相手にしているのです。
 ものの数分で、アーチャーに転職可能なレベルにまで、槇恵さんのレベルは上がってしまったのでした。

まぁ、かなりのブーストですからねぇ…


makie:「速い…
spit:「うむ。
Ridgel:「とはいえ、ちくちくレベル上げの楽しみを、奪ってしまっている気も、しなくもない。*9


makie:「い…いいのでしょうか…こんなにお世話になって…
reira:「気にしなくていいかと。
Grill:「ダネ。


spit:Ridgel:「さーて、転職ですな。


 そうです。
 無論です。










 弓手ギルド。
 ギルド職員の前に立った槇恵さんの身体が、ぽっと弱く輝きました。



spit:「いくぜ!
Grill:「オウヨ!!

当然ですよ!




 仕様です。*10


spit:「おめでとー。
Ridgel:「おめー。
reira:「おめー。

makie:「ありがとうございます!

たぶん、真ん中辺りにいる





 壊す気マンマンですよ?







spit:「さて。


 ちょいと帽子を直し、スピットはアーチャーに転職した槇恵さんに向かって口許を曲げて見せました。

spit:「槇恵さん?
makie:「はい?

Ridgel:「ナンパですか?
spit:「マテ。

 取り囲む仲間たちは、笑っています。
 だから、スピットも笑いながら、続けます。


spit:「まだ、槇恵さんの冒険は、これでも序章の始まり、3ページくらいなモンです。
makie:「はい。
spit:「これから、もっともっとたくさんの事が、このミドカルドで起こるでしょう。
Ridgel:「ですねー。
reira:「ハンターになるのも、大変だし。

spit:「ま、何にせよ、こうして出会ったのも、何かの縁です。

 ちょいと帽子を直し、スピットは言いました。



spit:「いつでも、プロベンに来れば、誰かいます。気軽に、顔を出してみてくださいな。

makie:「プロベン?


Ridgel:「我々が会った、ベンチのことです。
Grill:「プロンテラベンチ。
merrow:「槇恵さんが今所属しているパーティの名前ですね。

spit:「そんでもって、俺がそのパーティ、プロンテラベンチのリーダーにして、ギルド、Ragnarokのマスター…


Ridgel:「ナンパ師。
reira:「遅刻魔。
Grill:「ナンパーズ1、2位を、ひとりで争う男。
merrow:「むしろ、ナンパ死。





spit:マテ。

 いつものノリの、いつものベンチメンバーに、槇恵さんは笑っています。

 ここは、ミドカルド。
 見回せば、右も左も、冒険者たちであふれている世界です。

 でも、彼女はその中でベンチメンバーに声を掛けました。
 もしかすると、ベンチメンバーの誰かが声を掛けたのかもしれません。

 もっとも、スピットにとっては、それはどうでもいいことです。

 見回せば、右も左も冒険者。
 そんな首都、プロンテラの中で、何故かベンチ。

 でも…

 スピットは帽子を直してにやりと笑うと、言いました。

spit:「パーティ、プロンテラベンチのリーダー、スピット様が、槇恵さんのはじめての冒険のオープニングを飾ったんだ。いい旅を、これからも続けてくれよよな。


makie:「がんばります!

Ridgel:「というより、偉そうですな。
Grill:「だネ。
reira:「でも、よい旅を続けてください。
merrow:「ベンチにも、遊びにいらしてくださいね。

 槇恵さんはこくりとうなずいて、元気良く言いました。


makie:「はいっ。




spit:「んじゃ、我々も行くか…











「って…



ば…バカな!?


"hayate":キレイになど、終わらせるものか!!


Ridgel:「ナンカキター!?
spit:「やっべ、ハヤテさん、PTに入れたままだったか!?*11



"hayate":「ノービス転職に立ち会わせないとは、どういうことか!
spit:「グリ!メロウ!
Grill:「ほいさ。
merrow:「では…


叩きつぶす!




"hayate":ぐはあぁ!!






"hayate":「(がくっ…




Ridgel:「悪は滅びた…
Grill:「だね…

makie:「えーと…


spit:「いこう…

 くるり、きびすを返すスピットに、リジェルさんが言います。

Ridgel:「どこへだ?






"hayate":「俺たちの世界へ!


spit:Ridgel:SaGaかよ!?*12





 なにはともあれ…


そのまま、フェイヨンダンジョンに突撃だー!


Ridgel:「スピさん、死にますよ?
"hayate":「いつものことだし。
spit:「ゾンビごときにやられるかー。
reira:「あー。
makie:「あたりませんー。
spit:「気合いだ、気合いー!


 広大なミドカルドを舞台に、彼らとそして彼女の冒険は、続きます。



*1 ようは、Ragnarok Onlineは1アカウントで1サーバに3キャラまで作ることが出来るので、2キャラ目や3キャラ目は前のキャラクターの装備やお金を使うことが出来るので、ノービスでもかなり強いことがある。RO日記内では、基本的にこういうキャラは兄弟キャラとして扱っている。
*2 むしろ、大正解。
*3 この日記を見てベンチに来たのかと思いきや、そうではなかったという…なんたる不運!
*4 水武器。水属性のついた武器。火属性のエルダーウィローにダメージをたくさん当てることが出来る。
*5 ローカル用語。
*6 QM。クァグマイア。敵の素早さを落とす。
*7 オーバートラスト、アドレナリンラッシュはBSこと、ブラックスミスのスキル。BSは商人の2次職。
 ちなみに、オーバートラストは攻撃力を増加させるスキル。アドレナリンラッシュは攻撃速度を増加させるスキル。
*8 嫌いです。ちなみに、8話くらいところどころですっ飛ばしています。
*9 ノービスでポリンを叩いて、お金を稼いで、転職して(剣士)、はじめてツルギを買ったときの喜びとか。
*10 この瞬間のために生きているのですよ!(大げさですよ。
*11 前回の冒険でパーティにいれて、そのまま。前出のように、パーティメンバーはどこに誰がいるかわかる。
*12 チェーンソーで一撃ですよ。