studio Odyssey



勢いで魔法士には。


 ゲフェン。
 それは強力な魔法が眠るとされる地の上に立った、巨大な塔を中心に盆地の中に栄えた町です。
 古くから魔法の研究が盛んで、この場所に、世界中の魔法士たちの所属する、魔法士ギルドがあるのでした。
 ゲフェンの町の北西。
 こじんまりとした建物。
 魔法士ギルド。
「え?」
 私はギルド職員の女性の言葉に、目を丸くしました。
 言われるままに魔法使い転職申請書にサインをし、手渡したのに、
「ま、魔法士になれないんですか!?」
「おいおいおい、オネーさん。彼女が魔法士になりたいって言ってんだ。魔法士にしてあげてよ」
 と、スピさん。
「紹介状でもいるなら、俺が書くけど?」
「スピではだめでしょう。私が書きましょう。それでかまいませんよね?お美しい、お嬢さん?」
「引っ込んでろ!アブ!!」
「スピなんかより、私の方がー!!」
「俺…」
 ぽつり、あおさん。
「あの二人の紹介で魔法士になる人って、どうなんだろとか、思っちゃったんですけど」
 うんうん頷きながら、ラバさんは言いました。
「激しく弱そうだ」
「なにッ!?」
「えーっと、魔法士に転職できないんじゃなくて…」
 ギルド職員の女性は言いました。
「今、魔法士になるには、志願者が多いので、簡単なテストをしているんですよ。で、それをパスしないと、魔法士には転職できないんです」
「そんなテストは昔はなかった!」
「ありませんでしたねぇ」
 スピさんとアブさん。
「お師さま、私の転職の時、あったじゃないですか…」
「俺も、転生してからの時はあったな」
「…時代の壁を感じる」
「ですねぇ…」
 聞いた話によると、スピさんとアブさんが魔法士になったのは一年以上も前の話で、今とはだいぶん、魔法士転職のシステムも違ったという話でした。
 ギルド職員の女性の代わりに、えぶちゃんが言いました。
「魔法士に転職するには、簡単な実技テストがあって、混合液を作らないのといけないのです」
「混合液?」
 聞く私に、ギルド職員の女性。
「ソアラさんに作ってもらう混合液は…」
 小さく彼女が魔法の言葉をつぶやくと、私が提出した転職申請書の一部が、ぽうっと弱く輝きました。そしてそこに文字が浮かび上がり、
「公式混合液<4>ね」
「4かぁ」
 うーむとえぶちゃんはうなります。
「4って、なんだっけ?」
 と、グリさん。
「全くわからない話が展開している」
「まー、あれだよ。やっぱりゲフェにソアラたんを送り届けるだけでは、終わらなかったとゆー事だよ」
「そうだな、俺にもそれは理解できた」
「えーと、混合液、4とゆーと」
 てくてく、えぶちゃんは魔法士ギルドの壁際にずらりと並んだ本棚の方へと向かって歩いていきました。
「…そこはかとなくギモン」
 ぽつり、スピさん。
「どうぞ」
 返すアブさん。
「こーゆーのって、俺らが手助けしてもいいものなのか?」
「知りません。私らの時にはありませんでしたから」
「だなー」
「ゼロピー二個、綿毛三個、溶媒液にモロク水溶液。魔法の粉が五四二九グラムに、触媒石は透明な宝石」
「さっぱりわかりません」
 スピさんとアブさんの声が、きっちり重なりました。
「あ、ソアラちゃん、空の試験管を受け取っておいてください」
「あ、はい」
 言われるまま、私はギルド職員の女性から空の試験管を受け取りました。な、なんだろ、これ。何に使うんだろ。首を傾げている私に向かって、グリさんが言いました。
「その中に、モロク水溶液を入れてこないと、混合液が作れない」
「なるほど」
「魔法士の転職試験って、大変ですねー」
 へーと、私の手の中の空の試験管を見つめながら、迦陵ちゃんは言いました。
「シーフの転職も、ピラ一階を抜けなきゃならんから、キビシイぞ」
「しかも、転職試験もちゃんとあります」
「あるの!?」
「しらなかったー」
「俺の時は、ありましたよ?」
「ふ。俺たちは、古い人間なのさー」
「なのさー」
「ともかく」
 ちょいと帽子を直し、スピさんは言いました。
「モロクにいかなきゃならん訳だな」
「ま、そゆこと」
 グリさんが軽く口を曲げて言いました。
「ポタか、カプラさんに飛ばしてもらお」
「愚か者めっ!!」
 ぴしりっ!スピさんは一喝します。
「そうですっ!」
 なんと、えぶちゃんがそれに続きました。
「この試験は、ミドカルド大陸の端から端までをわざわざ歩かせる試験なのですっ!そぅ!そこにこそ、この試験に隠された、真の意味が──!!」
「俺には、ポタ乗る金もねぇ!」
「──お師さま?」
 ジト目というやつで、えぶちゃんはスピさんを見ていました。スピさん、こほむと咳払い。
「スピさん、わざとらしーです」
 アピさんも目を細めてスピさんを見ていました。
「ソアラ」
 スピさんは帽子をちょいとなおしながら、私に向かって言いました。「あっ!スピたん、ソアラたんをいきなり呼び捨てっ!?」「失礼ですよっ、スピ!」「うるさーい!」
「私は別に、呼び捨てで呼ばれてもかまわないですけど…」
「調子に乗るから、そういうことは言わない方がいいです」
 こ、このパーティのみんなは、本当に仲がいいのだろうか…
「とりあえず、今から歩いてモロクに向かうと、日付が変わってしまう。まずはプロに向かい、今夜はプロで一泊、明日の早朝にモロクに向け出発で、モロク水溶液とやらをゲットだぜ!」
「ポケモーン」
「パチモーン」
 え?なに?なに?
「異議なしのようなので、では、プロンテラに向けて出発ですね」
 にこり、アピさんは言いました。
 い、異議なしの返答だったんだろうか、今のは。
「プロに向かって歩きながら、魔法士のスキルプランを考えるのもいいかも知れないね」
 グリさんが言いました。
 てくてく、歩き出すスピさんに、他のみんながついて歩いていきます。
「んー、時代は変わりましたねぇ」
 スピさんと共に先を行くアブさんの声が聞こえてきていました。
「私らの時みたく、ノリと勢いだけで、魔法士になれる時代じゃないんですねー」
「俺は別に、ノリで魔法士になったわけじゃねーけど」
「でも、勢いでは、なった」
「うーん、そうかも」
 私たちは一路、プロンテラを目指して歩き出しました。