studio Odyssey



『闇』の船。


「義によって、助太刀いたします!」
 ぶんっと勢いよく槍を振るいながら言うのは、あおいるか。
「義なんか、あるっけ?」
「ない」
 もっともなことを言うのは、いるるとラバだ。
「まぁ、でも誰か、ノリノリだし」
「船を落とした方が早いんじゃない?」
 両手のジュルを振るいながら、迫るパイレーツスケルトンをなぎ倒していくのはグリムとシン。
「アサシン戦隊、しょぼぴくみーん!」
「いいから戦え」
「あぅ!?」
 船の縁に仁王立ちしていたまゆみ嬢が、スピットに蹴り落とされた。「あぁぁ、そんなご無体な…よよよ…」「なんでしょう、今のは?」「気にしてると、死ぬよ?」
「ウィータ!イブ!敵船のアチャスケを落とせ!!」
 蹴り落としたまゆみ嬢をそのままに、変わりに縁に仁王立ちしたスピットが、アークワンドを振るいながら海賊船の甲板を指す。
「了解っ!」
 腰の矢筒から銀の矢を引き抜くウィータ。
「人使いの荒い…」
 同じく矢を引き抜くのはイブ。そして二人は同時に、「ダブルストレイフィング!!」火矢を撃つアーチャースケルトンへと、矢を放った。乾いた音が響き渡り、砕けた骨が漆黒の海へと消えていく。
「グリ!」
「おうよ!」
「かまうこたぁねぇ」
 ふっと軽く笑いながら、帽子をなおし、スピット。
「焼きつくせ」
「どっちの味方だ、オマエー!?」
「正義の味方」
「正義の味方の発言じゃネェ…」
「玲於奈は、甲板のみんなの援護を!アピ、あおさん、船内に入る!!」
 仲間の声など知ったことかとばかりに、スピットは甲板に飛び降りると、あおいるかの駆るペコペコの左脇ベルトを掴んだ。あたふたと、アピもあわててそれに続く。
「とつ、げき!!」
 ばしりと、アークワンドでペコペコの尻を一撃。「クエエェェ!?」という嘶き──悲鳴?──と共に、ペコペコはパイレーツスケルトンをなぎ倒しながら、船内へと駆け込んで行く。
「…正義?」
「いあ…」
「ノリ」
 甲板には、新たなパイレーツスケルトンたちが曲刀を手に、飛び移ってきていた。
「モンスターが徒党を組んで襲ってくるなんて、あるんだな」
「聞いたともないけどねー」
「でも、今、目の前に」
「プリ、ひとりかぁ」
「船、落とそうぜ?」
「その方がはやそうだ」
「あんな大きな船、落とせるの?」
「なにを言います、ここに、プロベン三大魔導士の二人がいるのですよ?」
「十秒稼いでくれたら、落とすヨ?」
「他の二隻まで、沈めそう…」
「き、君らはいったい──」
 甲板にいた、襲われていた船の乗組員らしき男が剣を手にしたまま聞いてきた。
 探るようなその言い方に、アブが返す。
「通りすがりの、冒険者です。アヤシイ者ではありません」
「通りすがり!?」
「アヤシすぎる…」
「な、なんだかよくわからんが──」
 無数のパイレーツスケルトンに囲まれながらも、平然と言ってのけるその冒険者たちに、彼は言った。
「我々の命など、どうでもいいのだ!巫女を…この船に乗っている巫女を、護ってほしい!!」
「巫女!?」
 刹那に反応を返すのは誰であろう──まゆみ嬢だ。
「むっはー!!」
「萌え」
「女の子ですか?」
 聞くウィータに、こくりと頷く彼を見、皆、ゆっくりと大きく頷いた。
「じゃあ、平気だ」
「え──?」
「ナンパ師が行ったからには、女性は誰ひとり、傷つきません」
「俺たちは、船を落とそう」
「三分だ、それ以上は、責任もてんよ」
「それだけあれば、十分だ」
「いくよっ!!」
 ウィータが弓を放った。
 それが、合図だった。
 アサシンたちがパイレーツスケルトンめがけて疾風のように駆けだしていく。二人の魔導士が、杖を掲げて呪文を唱えた。
 巨大な魔法陣が生み出す風に、巻き上がった炎が漆黒の闇を裂いた。


「ナパームビート!!」
 魔法の言葉に、眼前の扉が吹き飛んだ。
「つっこめ!」
「うぃさ!」
 吹き飛びはしたものの、それはペコペコが通り抜けるには、あまりにも狭すぎた。人ひとり通り抜けるのがやっとと言うくらいの、中型船のドアだ。対して、ペコペコは騎士をひとり乗せて走る巨大な鳥。
 しかも、今は両脇に二人、荷物がくっついている。
「スピさん!幅が足りないです!」
「壊せ」
「がってん」
「ああぁぁ…」
 ペコペコは躊躇なくドアに向かって突き進み、けたたましい音と共に壁をたたき壊しながら、船室へと躍り込んだ。
 ドアの向こうは、食堂になっていた。
 船体の幅いっぱいを取ったその食堂は、それなりに豪華な作りをしていて、入り口が中二階にあるような作りになっている。つまり、入り口から入ると、まずは大きめの廊下のようになったフロアがあり、その下に、食堂のフロアが広がっていた訳だ。
「お?」
「いやぁ…」
 勢いよくドアを突き破ったペコペコは──
「──飛んでます」
 その先にあった廊下のようなフロアの柵までたたき壊し、食堂の上に飛び出していたのであった。
 攻め込んできていたパイレーツスケルトンと戦っていた船員達が、皆目を丸くして、宙を舞う飛べない鳥、ペコペコを見上げている。
「あおさん、任せた!」
「なにを!?」
「アピ!」
 ぱっとアークワンドを伸ばすスピット。アピがその端を握ったのを確認すると、スピットは逆の手で、食堂のシャンデリアを掴んだ。「ってわけで、掃除よろしく」「俺、こんな役回りばっかだ!?」見上げるあおいるかに、スピットと一緒にシャンデリアにぶら下がったアピが、手を振っていた。
「ウワアァァァン!」
 巨大な鳥が、テーブルをたたき壊しながら──ついでにパイレーツスケルトンと、それと格闘していた船員の何人かをはじき飛ばしながら──フロアに降り立った。
「やってやる!やってやるぞ!!」
「な、なんだ貴様は!?」
「助けに来ましたっ!」
「って、今、仲間達も巻き込んだ──」
「正義の味方です!!」
 説得力皆無。
「ブランディッシュスピアっ!!」
 気合い一閃、あおいるかは槍を放つ。突然に空から降ってきた騎士に飛びかかろうとしていた骸骨剣士たちが、その槍の生み出す圧力にはじき飛ばされて、跡形もなく砕け散った。
「そんなわけで」
 すとんとシャンデリアからフロアの安全を確認したスピットが飛び降りてくる。隣にはアピ。
「助けに来た!」
「なんだお前たちは!?」
 乗組員の誰かの質問に、テーブルの上の魔導士、その隣のプリースト、ペコペコに乗った騎士が、同時に返した。
「通りすがりの、冒険者です!!」
 乗組員たちは、剣を手にしたまま、唖然。
 ここは、海だ。
 確かに、航路上では、ある。
 が、
「通りすがり!?」
「細かいことは、気にするな」
 ちょいと帽子を直し、身構えるスピット。すっと食堂に視線を走らせる。曲刀を手にしてじわりじわりと自分たちを取り囲むように動く闇の者の姿は、二十と言ったところか──
「よし」
 ぎゅっと杖を握り直し、スピットは言った。
「ここは、この騎士に任せろ」
「俺!?」
 目を丸くするあおいるか。騎士は今、ここに自分しかいない。
「しかも、俺、のみ!?」
「がんばです」
 バイブルを片手に、握りこぶしを見せるアピ。「いるかさんなら、なんとかなります」「ならない。絶対ならない」
 言い合う二人をおいて、スピットは続ける。
「動ける奴は、甲板に出ろ!船首に、俺たちが乗っていた船が接舷してる。この船はもう保たない。さっさと避難するんだ!」
 ざわりと、食堂の中にいた乗組員たちが浮き足だった。
 一瞬の隙、その瞬間に、闇の者たちが動いた。
 彼らを取り囲んでいた骸骨剣士が、一斉に動く。曲刀が、赤い炎に照らされて空間を裂く。右、左、展開する魔物たち。すべての音が、各々が発する頭蓋と顎とをうち鳴らす音で埋め尽くされた。
「右!」
 短く、スピットは叫ぶ。あおいるかがその声よりも速く右へと振り向く。続けて、スピットは魔法を唱えた。「我、今、偉大なる魔力を持って──以下略」「略!?」
「セイフティウォール!!」
 いつの間にか彼の左手に握られていた青い宝石──ブルージェムストーン──が、彼の声と共にはじけた。同時に、アピの足下に魔法陣が生まれ、それは彼女の周りに光の壁を生み出した。物理攻撃の絶対防御魔法、セイフティーウォールだ。
 光の中、アピはそっと目を伏せ、開いたバイブルに手をかざし、祈りの言葉を発した。
「主よ、その大いなる力の前に、悪しき闇の者の刃から、精霊たちを護り給え!」
 ふわりと風が舞う。風は騎士、あおいるかの身体を包み、彼女の祈りの言葉の最後と共に、
「キリエエレイソン!!」
 光となってはじけた。
 はじけた光があおいるかの身体を包む。対象者の身体を傷つけようとするすべての攻撃を、ある程度吸収する光の衣を生み出す防御魔法だ。
「エナジーコート!!」
 こちらはスピット。彼の呪文と共に、同じような青い光の衣が彼の身体を包む。
「準備万端っ」
 そして、彼は杖を手に叫んだ。
「迎撃!!」
「らじゃー!」
 ペコペコを駆る手綱を、あおいるかが撃つ。と、迫るパイレーツスケルトンへ肉薄するペコペコ。戦闘用に訓練されたペコペコは、恐れることなく闇の者たちの中へと躍り込み、鞍上の騎士の意志に応える。
 騎士は槍を握り直し、振り下ろされる曲刀の一閃よりも速く槍を突き出す。飛びかかってきたパイレーツスケルトンが、次々と崩れ去っていく。
「ソウルストライク!!」
 スピットは杖を振るいながら、素早く魔法を唱えた。それは呪文の詠唱をほぼ必要としない、速攻の念魔法だ。彼の魔法の言葉と共に、五つの精霊球が生みだされ、過たずにそれは彼が杖で指し示した魔物に炸裂する。乾いた音が響き渡り、魔法の爆発と共に闇の力が砕け散った。
「さあ、今のうちです!」
 食堂にいた乗組員たちへ、アピが告げた。
「早く、甲板へ!」
「し、しかし…」
 乗組員たちが困惑したように呟いた。「我々は──」
「この船は保ちません!」
 はっきりと、アピは言った。
「というより、きっとこの船は落とされます!!」
「誰にとは言わないけれど」
 パイレーツスケルトンと格闘しながら、あおいるか。
「というより、落とした方がはえぇ…」
 魔法の力に敵をはじき飛ばしながらスピット。
「っていうか、早くいなくなってくれりゃ、こいつら全部、かっ飛ばせるんだが──」
「いや…確実に沈みますって、そしたら」
「早く逃げてください!」
 言うアピに、スピットの脇を抜けたパイレーツスケルトンが躍りかかった。「やべっ…」小さく呟き、スピットは帽子を押さえながら振り返った。
「まぁ、いいか」
 パイレーツスケルトンが曲刀を手に、彼女に向かって飛び上がった。頭蓋と顎をうち鳴らしながら、曲刀をアピの頭に向かって振り下ろす。はっとしたアピが、バイブルのページを勢いよく括った。
「…セイフティウォール、あるしな」
 ぽつりと呟くスピットの声は、パイレーツスケルトンの曲刀が、光の壁の前に砕け散った音にかき消された。骸骨の目にあたる部分の奥にあった妖しげな光が、困惑するように揺れた。
 アピはバイブルに手をかざし、短く祈りの言葉を発する。
「ヒール!!」
 癒しの魔法、ヒール。生ある者ならば、その祈りに身体の傷を癒すことが出来るが、不死の力に操られし者には、自らの存在を否定する力に他ならない。闇の者、パイレーツスケルトンは、彼女の癒しの魔法の前に、爆発するようにして跡形もなく崩れ去った。
 風が舞った。
 アピはバイブルを手にしたまま、その風と、魔法の光の中で、言った。
「さぁ、みなさん!早くこの船から脱出してください!!」
 彼女の翡翠色の髪が、揺れていた。
 誰もが、彼女の姿を見た。
「──ユイ…様?」
 誰かの、小さな問いのような声が、響いた。
「はい?」
 アピは小首を傾げた。


 刹那──
 爆発が巻き起こった。
「!?」
 咄嗟、スピットは振りかえる。振り向いた先、食堂の壁を打ち壊し、そこから巨大な水の固まりが無数に飛び込んでくる。魔導士、スピットは瞬時にそれが何かを理解し、素早く道具袋の中からつかめるだけのブルージェムストーンを手に、魔法を唱えた。
「セイフティウォール!!」
 ──防ぎきれるか!?
 無数の光の壁が辺りに立ち上り、フロアにいた皆を包む。
 木造船の壁を突き破ってきたのは、魔導士の魔法、ウォーターボールだ。水のある場所でなければ使えない限定魔法だが、その限定条件があるが故、強力な攻撃魔法である。
「誰が──!?」
 スピットは風の向こうを見た。
 壁を突き破った水球は、荒れ狂う波と同じように辺りを飛び回り、光の壁をうち崩していく。誰かの悲鳴。生ある者、闇の者、テーブル、椅子、それが何であるかなど気にもとめずに、水球は辺りを破壊しながら踊り狂う。
 爆発によって吹き飛ばされた木片が辺りを飛んだ。巻き起こった風が、彼の頭の上にあった帽子を飛ばした。翡翠色の髪が風に踊る。視線の先、破壊された壁の向こうには漆黒の闇。接舷している、亡者たちの船。
 その中に、闇の衣をまとい、不気味に笑う姿があった。
「勝てるかよ!?」
 スピットは目を見開く。その視界に、水球が飛び込んでくる。「──!?」光の壁がはじけた。ごうと巻き起こった爆発に、水球が光と共に飛び散った。スピットは体勢を崩し、片目を伏せながらも、その闇の者から視線を外すことなく、強く奥歯をかみしめた。
「ドレイク!?」
 視線の先にいたのは海賊の頭──異様な形をした帽子をかぶり、元は上質なものであったろう、マントを身にまとった闇の者──ドレイク。
 その身を包む、金銀のアクセサリのついた服は、マントや帽子と同じくして、卑しく解れ、血肉をなくした骨ばかりの身体を覆っている。ドクロの頭の半分は奇妙な形の帽子──コルセア──の奥に隠れて見えなかったが、人の目にあたるふたつの場所では、異質な光が揺れていた。
 暴れ狂っていた水球は、今はもう無い。
 変わりに、静寂の中を、潮の香りを乗せた風が吹き抜けていた。
「こりゃあ…まずい」
 つうと流れる額の汗に苦笑し、スピットは辺りにさっと視線を走らせる。砕け散った壁やテーブルの下敷きにされたもの、魔法の直撃を食らい、うずくまるもの、立ちすくんでいるもの。
 部下である闇の者すらも一瞬で灰燼に帰した恐るべき海賊王の魔法を前に、誰も無言で手にした武器を握り直すのに精一杯だった。
 ドレイクの、人で言えば口にあたる部分の骨が、ゆっくりと動いて言葉を発した。いや、正確に言えば、肉のないドレイクに声帯はない。その声は、直接脳に響いたのかも知れない。
 禍々しいうねりを持った響きは、聞く者たちを戦慄させた。
『──選べ』
 スピットは強く奥歯をかみしめて、ドレイクをまっすぐに見据えていた。
『皆、我が下僕となるか──』
 ドレイクの身体の周りに、青い魔法のオーラが揺れた。波が暴れる。白波が、風に乗って髪を、頬を、服を濡らす。
 次の一撃を食らえば、この船はもう保たないだろう。
 落とすしかない──
 スピットは視線をアピ、そしてあおいるかに一瞬だけ送り、こくりと頷いて見せた。
 ドレイクの声が脳に響く。
『生あるうちに、巫女を渡せ』
「知るか!!」
 その声をかき消すかのように強く叫ぶスピット。右手のアークワンドを突き出し、呪文を叫ぶ。「天と地に満ちる、数多の風の精霊たちよ!!」
 生み出された巨大な魔法陣が、風を呼んだ。
「撤収ッ!!」
 あおいるかがペコペコの手綱を引く。食堂に倒れていた者たちを槍の先で器用にペコペコに乗せ、階上へと向かって駆けだしていく。
「動ける方は、走ってください!!」
 続くアピ。傷ついた者たちにヒールをかけ、階上へと誘導する。
 巻き起こる風の渦が海をゆらし、辺りに飛び散っていた木片を再び空へと舞い上がらせた。魔法陣はスピットの呪文の高鳴りに会わせ、輝きを増していく。生み出される風の力は加速を始め、まるでその場所に竜巻を呼び込んだかのように、大きく強くなっていく。
 空気の中の粒子が衝突し、ばちりとはじけ飛んだ。
 小さな雷の迸りが、空間を裂き始めた。
「アブ、グリ!」
 スピットは叫ぶ。
「落としてヨシ!!」


 甲板に、ペコペコを駆るあおいるかが飛び出してきた。
 気づいた甲板上の仲間たちが、一斉に口を動かした。
「他に、人は!?」
「これで全部だと思います!」
 ペコペコを飛び降りるあおいるか。ペコペコは自分の背中に乗せた者たちをそのままに、接舷していた船へと飛び移った。後ろには、自力で走れる者たちが続いている。
「海賊船の中に、ドレイクがいます!」
「ドレイク!?そりゃ、ムリだ!?」
「ヤッテヨシ!!」
 びしりと、まゆみ嬢は闇の船を指さした。「よし!」「ウシ!」魔導士のアブとグリが、呪文の詠唱でそれに応える。
「永久の時にも姿を変える事なき氷の力よ!我が前の敵を今、その力をもって撃ち滅ぼしたまえ!」
 アブの詠唱に、巨大な魔法陣が生み出される。青き光は空間を氷の力に包み、空気をきしませる。
「すべてを焼き尽くし、永遠に回帰させし炎の力よ!今こそ我が眼前に立ちはだかりし壁を、その力をもってうち崩し給え!!」
 グリの詠唱に応えた魔法陣は、天高くに真っ赤な火球を生み出した。火球は詠唱にあわせて数を増し、自らの力に胎動し、巨大に膨れあがっていく。
「露払いだ!」
 アサシン、グリムが言う。
「おう!」
 甲板に残ったパイレーツスケルトンへと、皆が駆けだしていく。
「呪文詠唱の時間を稼げ!!」
「ちょ…待って!?」
 スピット、アブ、グリの唱える、風、水、火の三大大魔法の魔法陣が、魔力をためてその力を加速させていく。荒れ狂う波に、激しく揺れる船。今までの戦いでダメージを受け、耐えきれなくなっていた様々な場所が、暴走に近い力に引きはがされ、宙を舞い始めた。
「ちょ…ちょっと待ってよ!!」
 風の中、イブが声を上げていた。
「巫女って子は!?」
「──…」


「ワスレテタッ!?」