studio Odyssey



後輩と僕

Written by : zeluk

「好きです! つきあってくだ」
「いいよ」
「だが断る」
「それはどんな会話の流れなんだい?」

 そんなこんなで僕と彼女はよくわからない理由で知り合いました。そんな高校三年の夏休みの事。




 AO入試で手堅く合格を決めていたので余裕もあったので高校に遊びにいくと、後輩の一人が僕に手紙を手渡した。
「先輩、これ」
 渡された手紙にはハートマークのシールが張ってあった。
「これは、君が?」
「先輩気持ち悪いです。俺、男っすよ」
「残念ならが僕のほうが気持ち悪い。で、君のか」
 んなわけないでしょう、と後輩は言った。どうやら知り合いに頼まれたらしい。
「しかし僕がここにくるかもわからないのに、なんでそんな」
「や、窓から見てたら先輩が来るのが見えたらしく、一分で書いて俺に渡してどっかいきましたが」
 それは想いがこもってるのかどうなのか。
 結構可愛い子でしたよ。といって後輩は去っていた。ラブレターなんぞを貰うのは初めてだ。少しワクワクしながら封を開ける。
 中に入っていたのはよくあるA4サイズのコピー用紙を四分割して切ったみたいな紙だ。切れ口が荒い、多分手で切ったなこれ。
 それはそれとして内容である。

 ――全略。

 とりあえず破って捨てておいた。





 夕方近くまで時間を潰してからそろそろ帰るか、という事になった。
 現役生はまだ残るそうなので僕は帰る。正直やる事もないので家に帰ってご飯食べて寝よう。
 と、駐輪場のところまで降りると僕の自転車に張り付いている女学生がいた。黒い髪を後ろで結わっている。
「何してるんだい」
「うひゃわ!?」
 声をかけると女学生は腰に手をやり一瞬で翻して僕の喉元へ。手の中には小型のナイフが握られていた。え、何、バイオレンス?
「ひゃ、あ? せ、先輩!?」
「まぁ僕は三年だから先輩かそれとも同期だね。とりあえずナイフ下ろしてくれるかな」
 そういうと少女はあたふたと挙動不審になってしまった。ナイフは下ろされない。
 ちょっとこのままだと精神衛生上悪いので落ち着いてもらいたいものだが。
「え、えとですね! これはですね! 先輩の自転車が盗まれないか心配で心配で…っ!」
「うん盗まれてないみたいだね君が見てたおかげだありがとう。とりあえずナイフ下ろしてくれるかな?」
 何故か”ありがとう”の部分にだけ反応して少女は顔を赤らめる。そっと頬に片手を当てて小さく首を振った。
「そんな、でも、あの、役に立てたなら嬉しいな、かな?」
「そうかい、それはよかった。とりあえずナイフを下ろしてくれるかな?」
 女学生は僕の言葉を聞いているのかいないのか、手をぎゅっと握り締め、真剣な表情で僕の顔を見ている。
「あの、私先輩に話があるんです!」
「わかった話をしよう、話し合おう。だからとりあえずナイフを下ろしてくれるかな?」
「だから明日、校庭にある桜の木の下に来てください!」
 そう叫んでから少女は身を翻して走っていった。人ッとびで生垣を飛び越え、校舎の壁を使って三角跳び。その後、ところどころにある高い木やら電柱の間をジャンプしながら何処かへと去っていった。
「なんてアクレッシブな子なんだろうか」
 心の中に”あまりかかわらないで一歩離れてみてると面白い女の子だな”とメモをとって帰宅することにした。

 ところで校庭の木の下で、といったがうちの高校の校庭には木が生えてないのだがそこら辺どう考えてるのだろうか。







 言われたとおりに高校に向かおうと思って家を出るとポストに「早くミロ」とチラシが張ってあった。
「懐かしいな」
 近くの自動販売機へと駆け寄って、未だ売っている「ミロ」を購入した。この安っぽいココアの味が好きだったな、なんて。そんな事を思い出した。
 まぁ冗談はおいといてポストの中身を見てみる。すると中には一枚の紙切れが入っていた。

 ――ところで校庭の木の下って何処ですか。

 基本的に頭の弱い子なんだなと思った。何故か知らないがご丁寧に郵便番号やら住所やらが書いてあったので、彼女の家に伺ってみることにした。興味本位という奴である。


 呼び鈴を鳴らすと間をおかずに一人の少女が出てきた。昨日自転車に張り付いていた少女である。
「あれ? 先輩はどなたですか?」
「一応私服のつもりなんだけど先輩って呼ぶのには何か理由があるのかい」
 あら私のうっかりさん、なんて舌を出しながら自分の頭を小突く少女。ちょっと怖い。
 一応校庭に木はないことを伝えてから自宅へと帰った。
「あの! ありがとうございます!」
「礼には及ばないよ、で、なんの話だったんだい?」
「また手紙送ります!」
 見事なスルーっぷりである。
 だが一応手紙を送るというアクションは起こしてくれるみたいなので安心だ。





 そうして改めて送られた手紙に書かれた場所、校舎裏にて冒頭のような会話を交わしたのである。

「とりあえず言ってみるけど意味がわからないのだが」
「えぇっとですね。私、前々から先輩に興味があったんです」
 ほほう。
「いつも飄々としていて、どっちかっていうとツッコミに見えるけど実はボケだったりとか」
「僕はどちらも好きだけどね」
 というよりつっこんだりぼけたりという自覚はないんだけども。
「そんな感じに毎日を面白おかしく生きてる先輩と、知り合いになりたかったんですよ」
 成る程、ある意味理由としては成り立ってはいるように思える。
 だが意味不明な部分もあった。よくわからない行動に意味のないハートマークとか。あの手紙とかにはいったいどんな意味があったのか。
 少し考えて…考えてから答えを言ってみた。

「もしかしてリアクションが見てみたかっただけかね?」

 今時珍しい「ゲッツ」のポーズをとりながら僕の事を指差してるので多分正解なんだろう。

「先輩はもう卒業しちゃいますから、今まで溜め込んだ分も全部」
「よくわからなさすぎてどう反応すれば正直参ったのが本音なんだがね」
 苦笑いを浮かべる。いやしかし全く持って奇想天外な子だ。
 少女は向日葵のような笑顔を浮かべながらえへへと笑う。
「でも先輩って面白い人ですよね、ホントに。妙に勘とか鋭いし」
「そうかね? 僕としては普通のつもりなんだがな」
「先輩が普通だったら世の中は狂いまくりですよ?」
 他愛のない会話だ。実に普通な、なんでもない会話である。

「先輩って変なのに好かれそうですよね。付きまとわれるっていうか」
「自覚はないな。まぁ君も十分に変人ゆえに、付きまとわれるというのは嘘ではなさそうだが」
「あははー……そうだ先輩。僕っていう一人称はどうかと思いますよ?」
「む…昔からずっとこの呼び方だったからな。やはり変えたほうがいいかな?」
「今の時代はワイルドですよ!」
「時代遅れのゲッツとかやってる子に言われても信憑性がないが」
「それはそれ、これはこれ」
「ジェスチャーまで込みでせんでも…」
「ていうかですね、先輩は―――」
「それを言うならば君も―――」



 結局少女とは卒業するまでなんてことなく、上記のような会話をずっとずっと続けていた。
 ある意味で無個性であった自分の人生はあの少女がやってきたことで方向性を持ったことは確実である。奇想天外で意味のわからぬ行動は、それだけで面白かった。


 最近思うのは、彼女はよもや預言者だったのではないだろうかという事である。
 彼女は言っていた。先輩は妙なものに付きまとわれる、と―――



「うえぇぇぇん! 貞子ぉ〜! 助けてよぅ」
「とりあえずですね、このビデオを見てください! これを!」
 ていうか今時VHSですか。
「なっ!? わ、悪いですか!? 劣化なんてしてませんよ! これは優秀な映像記憶媒体なんです! 理想的ですよ!」
 ごめん、うちにはビデオデッキなんていう素敵なアイテムはないから。
「なんですって―――」
 そこまで驚く事でもないと思うのだが。長い黒髪を前にたらした美女―貞子というらしい―は驚愕の表情を浮かべている。
 横にいるメリーちゃんとやらも驚いているようだ。貞子に。
「どうしようメリーちゃん、この人ビデオデッキを持ってないわ…」
「今時VHSだなんて…っ!?」
「メリーちゃんまで!?」
 素敵な友好関係だなおい。しかしVHSって…DVDとかの時代ですよ、今は。ププ。
「殺すわ」
「落ち着いて貞子!? 呪いの発動条件も揃ってないのに殺しにかかっちゃだめ! 手順を踏ませないと死神さんからのペナルティーがーーー!!」


 ……そろそろ寝たいんだけどなぁ。


author:
zeluk
URI
http://www.studio-odyssey.net/thcarnival/x02/x0201.htm
author's comment:
 半端に終わる
 今回はーグダグダだなぁ(;´д`)
 小ネタを挟めなかったのが悔やまれる…っ!
member's comment:
<Hraes> ミロが飲みたくなった件について。
<yuni> ラストでああくるとは。
<Ridgel> 貴様ぁあああ!続きとはぁあああ!俺が涙ながらに前回の続きをあきらめたと言うのにぃいい!
<yuni> 後輩、いいなw
<u-1> 後輩いいな。
<Ridgel> 相変わらずテンポのいい会話ですよね。変わるも何も昨日の話ですがw
<u-1> 変なのにつきまとわれるシリーズは、このまま成長出来そうになってきたねw
<Ridgel> 持ちネタあるのは、強みだよにゃー。
<yuni> ギャルゲの主人公っぽいよね、今回の。
<u-1> まぁ、是非とも三部作の最後をいずれ。
<Ridgel> 三部作だったのかw