ShortCut Link:
寝ぼけ眼のままカーテンを開けると、気持ち良いくらいの秋晴れだった。
澄み切った青空、白く棚引く雲。季節柄少し肌寒いのが玉に傷だが、それでも良い天気な事に変わりはない。
自分は、天気に気分を左右されやすい人間だと思う。
雨が降ったりすれば何となく気鬱だし、こうして良い天気ならば気持ちも明るい。
「それはお前が単純だからだよ」と笑う声が脳裏をよぎったが、強引に無視を決め込んで起きる決意をした。
ベッドの周りに転がる空き缶に足が当ったりもしたけれど、これも無視する。
今日、どうしても外せない仕事があった事は良い事だったのか悪い事だったのか判断がつかない。
トースターで焼いたライ麦パンにマーガリンを塗りながら、ついついそんな事を考えてしまった。
両面を焼いた目玉焼きにフォークを突き刺して、とりとめもない考えを振り払う。
多分、今の自分は酷い顔をしてるんだろうなと思いつつ、朝食を取り終える。
食後のコーヒーはブラックなのに何故か酷く甘い気がした。
顔を洗って服を着替えて身だしなみを整え終わったが、時間に大分余裕があった。
昨日はあんまり眠れなかった所為だ。その理由を考えてしまう前に家を出ることにする。
「行って来ます」
一人暮らしをはじめて随分経つが、誰も居なくてもこう言ってしまう癖はまだ抜けそうに無い。
「変な癖だな」と頭の中で聞こえた声は、またしても無視。
いつもより早い電車は随分空いていた。
人もまばらな車内で、座席に座りながらぼんやりと窓の外を見る。
いい天気。今はまだ肌寒いけど、ひょっとしたら季節外れな陽気漂う一日になるかも知れない。
輝かしい二人の門出を祝う日に、これ以上の天気はないだろう。
式に出席できない事を伝えた時、二人は心の底から残念そうだった。
学生の頃から、ずっと一緒だった大切な友達。
そんな事を考えてる間に、電車は駅に着いてしまった。
やっぱり、今日はいい天気。だから、会社に向かう足を止めて、電話をかける事にした。
自棄酒を飲みつつ祝電は打ったけれども、それだけでは自分の気持ちが伝わらない。
わたしが二人の結婚を心から祝っている事を伝えなくちゃ。
だって、今日はこんなにもいい天気なのだから。