studio Odyssey


偽りの季節

 私はすべて気づいてる。
 けれど、
 彼はまだ気づいていない。

 私は彼を偽っている。
 そして私を偽っている。

 涙が流れそうになる。
 けれど、私は笑う。

 忘れてしまった思い出が多すぎると、
 私は笑う。

 言わなければいいのに。

 言わなければ、
 この時間は本当のままで、
 彼との距離が離れることはないのに。

 私は、今は私に向けられる彼の微笑みが、
 私ではない誰かに向けられていた物だと、
 気づいているから、

 彼に笑う。

 きっと彼は、
 私の偽りの笑顔には、気づいてる。


size:
510KB
author:
しゃちょ@studio Odyssey
author's comment:
 「夏の始まり」は企画ものですが、512それ自体は単独でも成立するようにある程度心がけています。
 これも単体で十分成立しうる512だと思います。