studio Odyssey


第九話




 吾輩は猫である。
 ──って、始まる文学小説があるって話を聞いたから、僕もそれの真似をしてみた。(注*1)
 僕の名前は、もうある。
 僕の名前はウィッチ。この名前は香奈お姉ちゃんがつけてくれた。
 僕が住んでいるところは、マンションという名前の所だ。僕はここで寝起きをして、香奈お姉ちゃんのお仕事先、『猫』へと一緒に連れていってもらう。(注*2)
 『猫』には、大きなおもちゃが置いてある。
 香奈お姉ちゃんの弟、一也のものと、遙のものだ。
 二人が、学校と言うところに行っている間におもちゃで遊ぼうとすると、いっつもシゲさんに怒られる。「こらっ!爪を研ぐな」って。あんな固いもので爪なんかとがないもん。
 『猫』には、教授と明美さんもいる。
 教授はいつも何かを考えている。きっと、いろいろ悩むことがあるんだろうな。あんまり考えてると、頭から湯気がでちゃうと、いっつも思う。
 明美さんは、いつも光る箱を見ている。(注*3)なんか、よくわからない言葉がたくさんでてくる奴。テレビじゃないんだ。だって、見てても面白くないもの。
 僕の遊び場、『猫』は色んな人がいて面白い。(注*4)








 第九話 彼女の名は魔女(ウィッチ)。

       1

「ウィッーチ!」
 わあ!
 シゲさんが怒鳴ってる。なんだろうなんだろう!何したんだろう!?
 爪?爪は研いでないよ。一也のおもちゃ(R‐0)の上でお昼寝してたの、ダメなの?うひゃあ、じゃあ飛び降りちゃえ。
「なぁに、どうしたの?」
 明美さんの声。R‐0の下で、光る箱を見ていた明美さんが言った。僕はその脇をするりと走り抜けて、イーグルの下にもぐり込む。
「ウィッチ、僕の机の上にあったキットを壊しちゃったんですよ。まだ作りかけだったのに、傷物ですよ傷物!」
「そんなことで目くじらたてないの」
「そんな事って、いくらしたと思ってるんですかこれ。万したんですよ」
「なんでシゲ君そんなお金持ってるの?」
「どこだウィッチ!」
「話を逸らさないの」
 ふー…明美さんのおかげで助かったや。でも、僕そんな事したかなぁ…シゲさん、勝手に僕がやったと思ってるんじゃないかな。失礼だな、もう。(注*5)
 とことことハンガーの中を歩いて、整備員さんのみんながいるおっきな部屋へ行く。
 ここはいっつも扉が開いていて、たいてい誰かがいる。
 こんにちわー。
 おっきな固い鉄の机が四つ。壁には棚がどーんとあって、ぶっといファイルがたくさん置いてある。うーんと…R‐0システム設定書、部品発注伝票、部品発注控え、重要・勝手に開けるな、とか。
 それから冷蔵庫が二つ。あれ、いっこはR‐0とイーグルの部品が入ってて、開けると怒られるんだ。もういっこの方は、食べ物が入ってるんだよ。僕は知ってるんだから。
 机の周りには、何人かの整備員さん達がいた。
「お、なんだウィッチ。腹でも減ったのか?」
 と、おやっさんが言う。おやっさんは整備員さんの中で、一番偉い人だ。別にお腹は減ってないよー。
 僕はひょいと机の上にジャンプした。
 おおっ!これは踏むとシゲさんに怒られる奴だ。机の上でおやっさんが見てたのは、R‐0の設計図って言う奴。なんか青い線がぴーって引いてあるやつで、この上に乗ると足が汚れるんだ。しかも、すぐに切れちゃうの。
「のっかっちゃ駄目だぞ」
 わかってるよぅ。
 僕はその設計図っていう奴をじっと見てみた。(注*6)
「やっぱりR‐0の下半身のバネは、もう少し強くした方がいいな」
 と、整備員さんがペン先で設計図っていうのを叩く。あんな事して切れないのかしら?
「しかしバネを強くすると、乗り心地の問題が出て来るぞ。パワーは上がるがな」
「乗るのは一也君だ。僕らじゃない」
「ひっでぇなぁ…」
「研究室の人間は、みんなそんなこと言ってるぜ」
「おいこら」
 ぺしっと、おやっさんが若い整備員さんの帽子のつばを叩いた。わぉ!
「俺らは整備員だろが。R‐0がいい状態で動けるようにすんのが、俺達の仕事だ」
「すっ…すいません」
「下半身のサスはやっぱりCタイプにする。R‐0の機動力は特筆すべき点だ。そこをあげた方がいい」
 おやっさんの言葉に頷く整備員さん。
「わかりました。Cサスで発注します」
 ふーん、整備員さんも大変なんだなぁ…


 なのに──
「ふぁああぁぁ…」
 R‐0っていう一也のおもちゃを作ったシゲさんは、いっつもマンガを読んでるか、眠そうにしてるかのどっちかなんだよな。
 本当にこの人があんなに大きな物を作ったのかしら?
 シゲさーん。
「ん?なんだ、ウィッチか。お前、キット壊しただろう」
 それは僕じゃないってば。(注*7)
 ねぇ、シゲさん。本当にシゲさんがR‐0を作ったの?僕はどうしても信じらんないよ。
「おやつか?そっか、今日は香奈ちゃんいないんだったな。食べ物ならないぞ」
 違うってば。シゲさんはさ、そりゃおもちゃを作るのは上手いけどさ。あんなおっきなおもちゃも作っちゃうの?
「シゲ君!」
「はいぃ!」
 明美さんが作戦本部室に入ってきた。光る箱を小脇に抱えて、眉毛がぴくぴく動いてる。わぅ!これはカミナリが落ちるぞ。逃げよっ。
「まーた、サボってるわけ?R‐0の午後の整備は?どうしたのかしら」
「いやぁ…ほら。整備班にはおやっさんという素晴らしい人がいるわけでして…僕が手を出すまでもないでしょ」
「R‐0は自分で作ったんじゃないの?」
「ま…そりゃ…そうですけど…」
「愛着は?ないわけ?」
「ありますよ!ありますけど…」
 シゲさんは机の上のマンガを手に取った開いた。あれ?あのマンガはさっき全部読んじゃってたような気がするけど…
「R‐0はもう僕の手を放れちゃったんですよ」
「は?」
「そりゃ、基本的なアクチュエーターは僕の作った奴を使ってますけど、細かい部分はもっと新しくていい奴に取り替えられてて…僕にはわからないところもあるんですよ」
「スネてんだ」
「そんなんじゃないですよ!」
「子供も、いつかは親の元から離れちゃうってわけね」
「そんなん知りませんよ」
 シゲさん、口を尖らせてマンガに見入っちゃった。
 明美さんは笑って、また光の箱を開いた。
 よくわかんないや。
 けど、やっぱりR‐0はシゲさんが作ったんだなぁ…すごいなぁ…


 あ!来た来た来た!
 遊ぼう遊ぼう!
「あ。ウィッチ、誰も遊んでくれないの?」
 そうなんだよ。そうなんだよ。みんな、整備してるんだ。つまんないんだよう。遊ぼ、遊ぼうよぅ遙。
 遙は制服って言うの着ている。これを着ているときは抱きついちゃいけないんだ。汚れちゃうから。怒られちゃうんだ。
「ちょっと待っててね。今着替えてくるから」
 まってるよ。その間に、一也と遊ぼ!
 一也一也ぁ!
「あれ?ウィッチ、今日はお姉ちゃんいないの?」
 いないよ。僕を置いて、どこか行っちゃったんだ。
「そうか。今日は大学の授業がある日か」
 そうそう、大学っていう所に行っちゃったんだ。あれは美味しいんだ。甘いんだよね。(注*8)
 一也は僕をひょいと持ち上げた。ちりりんと僕の首の鈴が鳴る。
「あ。お姉ちゃん、また赤い首輪に金の鈴をつけたんだ」
 いいでしょ。香奈お姉ちゃんがつけてくれたんだよ。飼い猫の証拠なんだって。
「ウィッチ、知ってるか?お姉ちゃんはな、昔お前と同じ黒猫を飼ってたんだぞ。名前も、ウィッチって言ったんだ」
 僕は香奈お姉ちゃんの事なんて知らなかったよ。一也、何訳の分からないこと言ってるんだ?
 ダメだなぁ。えい、キックしちゃうぞ。
「お」
 僕は一也の手から飛び降りると、すったかたーっと走り出した。
 遙の所の方が面白いや!


 更衣室って言うところにはね、鏡っていうのがあるんだ。
 これは面白いんだよ。僕と同じ動きをする奴が映るんだ。
 パンチ、パンチ!ほら、同じ事する。
「何してるのウィッチ。鏡にはね、自分が写るのよ」
 知ってるよ。この黒猫は『自分』て言うんだろ。僕の真似する『自分』め!えい、パンチだ!
「何してんだか」
 遙は笑った。そんで、
「はい、じゃぁちょーっとごめんね♪」
 と、僕の上に制服をぱふっとかぶせた。うひゃあ、なんにも見えなくなっちゃったぞ。でも、いい匂いがするからいいや。香奈お姉ちゃんと、同じようなニオイだ。


 ぶいぃぃいいんっていう音が光る箱から聞こえてくるとね、R‐0が動くようになるんだって。
「で。どこが変わってるんですか?」
 一也が言う。光る箱になんか文字が映ってるけど、一也には読めるのかしら?
「基本的なインターフェイスが変わっている訳じゃないんだけどね。ちょっとリンクに抵抗があるようなら、言って」
 コックピットを覗いて言ったのは明美さん。やっぱりいつも通り、光る箱を持ってる。
「動かしてみなきゃ、そんなのわかりませんよ」
 僕は、文句を言った一也のお腹の上で丸まってる。一也は椅子にねっころがって座ってるから、お腹の上がちょうど平らになってるんだ。
「まぁそうだろうけどさ。今の状態で、よ。BSSの方だけは、動いてる状態で」
「いえ。別になんの抵抗もないですけど…ウィッチ、重いよ」
 そう?僕、重いかな。
 でもお腹空いてるから、軽いはずだけどなぁ。いいや、遙の所いこ。イーグルの所にいるのかな?
「いててて!顔の上を歩くなよウィッチ!」
 あ、ごめん。わざとじゃ、ないよ。
 遙ぁ。遙は、イーグルのところで整備してるの?
 とことこと僕が歩いていくと、目の前を整備員さんが横切っていった。危ないなぁ。踏まれちゃうところだったや。もっと気をつけて、下を見て歩いて欲しいな。
 整備員さんの背中を見てると、その向こうに教授がいるのが見えた。
 あれ?そう言えば教授、いなかったなぁ。どこに行ってたんだろう?
 行ってみよぉーっと!
 教授ーっ!
「おおぅ!なんだ、驚かせるな。ウィッチか」
 教授、どこに行ってたの?
「ウィッチ、私はちょっと今忙しいんだ。一也君か、遙君のところに行って遊んでもらいなさい」
 あ。教授、教授、この紙袋なーに?
「あ!止めるんだ。こら、よせウィッチ!」
 見せてよ見せてよ。
「えい、離れなさい!」
 わぅ!投げないでよ。でも面白いや。もう一回やって!
 と──あれ?教授?何処行っちゃったんだ?
 あ。早いなぁ…もう階段上がって、作戦本部のドアのところまで行っちゃったや。よーし、追っかけちゃうぞ。
 教授ーっ♪
 いたいた。机に座って、紙袋の中を出したぞ。よーし、えいっ!
「うわっ!ウィッチ!!」
 教授、紙袋の中身はなーに?あ、箱だね。その中は──
 ん?なーにこれ。
「くっ…いいかウィッチ。これは男同士の秘密だぞ」
 僕は女の子だよ。
「誰にも内緒だぞ。いいか、特に明美君には絶対に言うなよ」
 綺麗な色してるねぇ…キャンディみたいだ。
 これ、なんなんだろ。
「…面白そうだな」
 なにが?ねぇ、何が?
「よし…」
 あ、教授。開けちゃうの?このビン。中身でちゃうよ。
「えーと…どこかここら辺にコーヒーカップが…っと。あった」
 飲むの?飲めるの?飲むノムのむ!
「ほら、ウィッチ」
 これ、飲み物だったんだ。どれどれ…
 …
 うえぇええええぇぇえぇええぇぇええぇぇぇええ…
 何これぇ…木の味がするぅ…
 まずいよぅ。
「うーむ…やはり猫の口には合わないのか」
 …あれ?なんか変だぞ。世界がぐるぐる回ってるぞ。これはなんだ?地震かな?
 ほり?足下がおぼつかなひぞ…ふれ…なんら…おるろ?
「…いかん…これは危ないことになってきたぞ」
 おるろろ?なんら、もひかひへ、あるはろくらっらのら?(注*9)


 ふきゅぅ…気持ち悪いよぅ…
 教授、変なもの飲ませないでよう。しぬかと思ったじゃないか。
 あひゅぅ…んでも、大分楽になってきたぞ。ところで教授?さっきから何を見てるの?
「なんだ?もう平気か?ったく、お前みたいのを下戸って言うんだぞ」
 ゲコ?僕は蛙じゃないよ。ねぇ、教授。それはなに?
「ああっ、引っ掻くな。これはコピーもないんだから」
 新しいおもちゃ?そうだね。R‐0と同じみたいな形してるもん。
「いいかウィッチ。これも他のみんなには内緒だからな。まだ、秘密なんだ」
 秘密、多いね。教授がいつも考えてるのは秘密のことなんだね。そうか。(注*10)
「このロボットはな、いつかR‐0と戦うことになるんだ」
 そうなの?それは凄いなぁ…どっちが勝つのかな。
「そしてその時こそ、私のR‐0が世界最強のロボットと認められることになるのだ。ふっふっふっふ…」
 きょ…教授…その、声を殺して笑うの…すっごく怖いよ。
 に…逃げよう…
「ああっ、ウィッチ!」
 ああぁん!教授が怖いよぅ!!(注*11)


 R‐0のおいてあるハンガーって場所は、すっごく広い。
 どれくらい広いかって言うと、僕が端っこから端っこまで走っていくのに、疲れちゃうくらい広い。
 だって、遙のイーグルって言うおもちゃは、すっごくおおきいんだもの。ハンガーっていうトコと、同じくらいの大きさなんだから。
 遙は、イーグルのコックピットの方にいるのかな?
 遙、遙ぁ。いたいた!
「あら、ウィッチ。どうしたの?」
 あ、一也もいる。ねぇねぇ、何してるの?
「おいでウィッチ。よいしょっ」
 抱っこしてくれるの?やった。らくちんらくちんだ。
「じゃ、一也。後は任せた」
 なにが?
「任せた──って!何で僕がイーグルまで見なきゃならないの!」
 あ、一也。遙の嫌いなイーグルのマニュアル持ってる。あれ、すっごく重たいんだよね。
「一也、コンピューター好きでしょー。なによー、この純真無垢な乙女の私が、イーグルに搭載されてるコンピューターなんていじれるとでも思ってるわけ?」
「純粋無垢かどうかはともかくとして、この前ちゃんと教えたじゃないか。ダメだよ。ちゃんと自分でやらなきゃ。いつまで経ってもできないよ」
「いつまで経ってもできないのはともかくとして、純粋無垢なの!」
「は?」
 あ、一也の顔おもしろい。
「なによーっ!」
 わう、遙怒ったぞ。
「わぁっ!」
 遙と一也はね、いつもこんななんだ。
 だけどね、やっぱり仲はいいの。
「で、『Enter』」
「はいはい」
「そうすると、イーグルの設定が更新されるから。わかった?」
「けど、多分また聞くと思う」
「──まぁ、いいや。じゃ、次行こうか」
 遙が四角いボタンをぽちぽち押すと、ぴっぴって鳴るんだ。『キーカクニンオン』っていうんだって。一也がいってた。
 遙が乗ってるイーグルっていうおっきな鳥の乗り物はね、遙の物なんだけど、シゲさんが作った物だから、遙はあんまりよくわかってないみたいなんだ。
 今日も一也に聞きながら、なんかやってる。
 でもね、あれって、半分くらいは嘘なんだ。僕は知ってるんだから。
「次って、Aパネルから始めるんだっけ?」
「そう。なんだ、わかってるじゃん」
「バカじゃないもん」
 とうっ!遙のお膝にジャンプだっ。と。僕、遙のこと好きなんだ。香奈お姉ちゃんの次くらいに。だって、遙もいい匂いするんだもん。
 そうそう、遙はね、ちゃんとイーグルのコンピューターってやつ、一人でできるんだよ。だって、よく一也がR‐0のコンピューターをいじってるとき、一人でやってるもん。
 うーん…でも何で、一人でできるのにやらないのかなぁ。
「あ、間違えた。[ENVIRONMENT]って、こっちでいじるんじゃなかったっけ?」
「ん?どれ?」
 一也、遙の前にある四角いボタンに手を伸ばして、なんかたたき始めた。
「あー…まぁ、こっちからでも問題なさそうだけど…」
 っていいながら、光る箱の字を見てる。あれ、なんて書いてあるのかなぁ。
 およ?
 なーに、遙?僕の手を持ってにこにこ笑って。どうするの?
「ウィッチぱーんち」
 あ、遙。僕の手で一也のほっぺたパンチした。
「いてっ、何すんだウィッチ」
 パンチしたのは僕の手だけど、僕のせいじゃないよぅ!
 でも、一也笑ってるから、怒ってないんだ。


 あ。いい匂いがする。
 マンションのエレベーターっていう箱から出たときからわかってたけど、お家の方からするこのニオイは、きっと香奈お姉ちゃんの作ってるご飯のニオイだね。一也、早く行こうよぅ!
「一也、ウィッチがカゴの中で暴れてるよ」
「いつものことだよ。お腹がすいてるんだろ」
 ういいぃい!早く行こうよぅ!
「遙、今日も家でご飯を食べて行くわけ?」
「あら、そんなこと言うの?遙悲しぃ…」
 ごはんー!
「そうよね、一人暮らしの寂しさなんて、一也にはわからないわよね。人恋しくなる夜の事なんて、一也にはわからないわよね(注*12)」
 ごはんー!!
「うん。わからない」
「あんた、すっごいヤな奴ね」
 ごはんくれぇーっ!!
「ウィッチ。暴れるなよ!」
「何よ、無視するわけ」


「うーん…」
 香奈お姉ちゃんは、結構くだらないことで悩む。たとえば──
「ねぇ一也」
「うん?」
「ウィッチのご飯なんだけどね。マグロたっぷりの奴と、マグロにシラスの入ってる奴と、国産本マグロの奴、どれがいいと思う?」
「そんなの僕に聞かれてもわからないよ!」
「私だってわからないから聞いてるんじゃない!」
「一番安いのにしちゃったらどうです?」
「でもね遙ちゃん、全部106円なの。国産本マグロの奴だけは、他の二個より小さいんだけどね…どれがいいのかなぁ?(注*13)」
「はぁ…」
「僕は何でもいいと思うけど…」
 僕としては本マグロがいいんだけど…でも、何でもいいからお腹空いたなぁ…


 お風呂は楽しい。
 今日は、一也と一緒に入る事になった。
「ちゃんと、シャンプーしてあげてよ」
「わかってるよ」
 お風呂、お風呂♪
「お風呂の好きな猫なんているのねぇ…」
「遙ちゃん、猫ちゃんだって綺麗にしてる方が気持ちいいに決まってるでしょ。お風呂が嫌いな猫ちゃんは、きっとお風呂に嫌な経験があるのよ」
「蛇口で背中擦ったり?」
「そうね。それとかすっべって転んだり…(注*14)」
「わかったから脱衣所から出てけよ」
「別に、あんたのなんか見たかないわよ」
「じゃあ出てけよっ!」
「怒んないでよ。ちっちゃい奴ねぇ」
「なっ…そりゃどういう意味だよ遙!」
「おほほほ♪」
 一也ぁ、いいからお風呂入ろうよぅ。


「ったくなぁ…遙はなに考えてんのかわからないよなぁ」
 お風呂は気持ちいいねぇ…
「ウィッチ…聞いてるか?」
 うに?ごめん。聞いてなかった。
「聞いてなかったな…」
 うん。ごめん。聞いてなかった。
 僕のお風呂はね、洗面器なんだ。僕の黄色い洗面器にお湯を入れて、それをおっきなお風呂にぷかぷか浮かべて、一也が支えてくれるんだ。別に支えてくれなくても大丈夫だけど…でもここ、落っこちたらやっぱり足が着かないからなぁ。
「体洗うか?ウィッチ」
 うん。洗う。
 ざばっとお風呂からあがる一也。すのこの上に座って、僕の顔を自分の方に向けた。
「目、つぶってろよ」
 わかってるよぉ。シャンプーって目に入ると痛いし、苦いんでしょ。
 アワがいっぱい出て、おいしいのかなって思って舐めてみたら、すっごく苦かったんだもん。教授に飲まされた液体の次くらいに、まずかった。(注*15)もうそれ以来、シャンプーは舐めないことにしたんだ。けど、いい匂いはするんだよな。香奈お姉ちゃんとか、遙のニオイとかにそっくりなんだ。
 一也が僕の体をシャンプーでごしごしする。ふわぁ…きもちいい。
 眠くなっちゃうや…
 およ?なんだあれ?
 イモムシがいるぞ?
 ふにふに動いてるぞ。
 なんでこんな所にイモムシがいるんだ?
 放っておくと、香奈お姉ちゃんが悲鳴を上げるだろうからな。この前のゴキブリの時は、大変だったからなぁ。
 よーし…まだ一也も気づいてないみたいだし…僕が退治してやる。
 狙いを定めてぇ…
 うりゃ!!


 …
 あれは一也の体の一部だったのか…
 僕にはないのに…


「ひどいことしたのねぇ」
 わざとじゃないよ。イモムシだと思ったんだもん。
 一也はお風呂からあがっちゃった。僕をほっぽらかしてだよ。んでも、痛そうにしてたから、きっと怪我でもしちゃったんだろう。
 しょうがないから、遙が僕と一緒にお風呂に入る事になった。
「アレは、体一部なのよ。攻撃しちゃダメ」
 知らなかったんだもん。僕にはないし。
 遙とか、香奈お姉ちゃんは一也とは違う。イモムシ飼ってない。
 んだけど、遙とか香奈お姉ちゃんにはボールが付いてるんだ。これも僕にはないんだよなあ…
 体の一部なのかな?よし、取りあえず軽くパンチだ。
「?」
 お!ふにゃふにゃだ。僕の足の裏にある奴と同じ奴かな?(注*16)
「ウィッチ?なんで私のに触るの?誰が、そんなこと教えたの?」
 誰にも教えてもらってないよ?気になったんだもん。これ、ぷにぷにしてるね。
「すけべ。一也にでも教えてもらったの?」
 一也はイモムシ飼ってるの教えてくれたよ。あとは…大したことは教えてもらってないなぁ。ねぇ遙、ここに何か出来てるよ。病気?
 さわっちゃえ!
「あっ…ウィッチ!」
 うひゃあ!やっぱり体の一部だったんだ。怒られるぅ!
「もっ…もうっ!ウィッチ。変なところ、さわんないでってば」
 ごめんなさいごめんなさい。
「んーでも…まぁ…ねぇ」
 うに?遙、お風呂あがるのか?ゆだってるぞ。顔、赤いぞ。
「ウィッチ?」
 なーに?じっと見て。やっぱりそこ、痛かったの?もうしないよ。
 なに笑ってるの?あ。本当は痛くないんだ。だったら僕のこと怒んないでよ。失礼しちゃうなぁ。
 じっと見て、どうしたの遙?
「ウィッチ?」
 ん?
「バター好き?」
 ジャムの方が好き。(注*17)









       2

 今日はね、日曜日って言うんだ。
 日曜日はね、天気が良くて、ひなたぼっこする日なんだ。だから日曜日って言うんだよ。香奈お姉ちゃんが教えてくれたんだ。(注*18)
 今日はみんな『猫』にいてね。なんか楽しそうにやってる。僕はR‐0の上でお昼寝するんだ。
 お昼ご飯も食べたし、ふにゅぅ…眠くなってきちゃったや。
「あのぅ…すみませーん」
 ん?誰か来たぞ。お客さんかな?
 あ、おやっさんがハンガーの入り口の方に行ったや。ちょっと行って見よ。
 んしょ。
「なんでぇ嬢ちゃん。ここは関係者以外立入禁止だぞ。入って来ちゃダメじゃねーか」
「あ…あの…すみません」
 女の子だ。女の子はイモムシ飼ってないんだよね。んで、ボールは爪たてなきゃ突っついても平気なんだ。(注*19)
「なんか用でもあるのか?」
「ええ…あの、私、吉田君と同じクラスの松本って言います…」
 およ?なんか後ろの方で凄い音がしたぞ?
 くるりと振り返ってみると、イーグルの脇から覗き見していた整備員さん達が、山になってくじゃっと潰れてる。うに?あれって面白いのかな?
「何してんだお前ら!いいから一也君呼んでこい!」
「はっ…はいぃ!」
 面白そう面白そう!僕も行く。


「一也君、女の子が君に会いに来たぞ」
 整備員さん、なんで笑ってるの?それって面白いことなの。
「僕に?誰だろ」
「彼女だ♪」
 遙、遙、彼女ってなに?
「あ、ウィッチ!いこいこ。一也の彼女が来たよ」
 あの女の子、彼女って言うんだ。へぇ。
「興味深い話ねぇ…」
 そうなの?明美さん。
「ちょっ…待って下さいよ。どうしてすぐにそうなっちゃうんですか。前に遙が来たときだって、そうだったでしょ」
「一也君、アイドルらしくなってきたな」
「教授!」
「園子ちゃんはどうしたんだよ」
「シゲさん。あれはだって…」
「一也君て結構鬼畜なのね」
「明美さん!」
 鬼畜ってなに?鬼畜ってなに?一也、鬼畜ってなに?(注*20)
「同じクラスの女の子って言ってたよ。彼女」
 あ、そうそう。そうなんだよ。
「えっ!?松本さん!?」
「下の名前は?」
「詩織って…なんで僕がそんなことまで教えなきゃいけないんですか!」
「怒るな。っと、松本 詩織さんだな」
「メモをとらないで下さい!」
「フルネームで言えるって事は、結構親密な仲ね」
「なんでそうなるんですか!」
「と、聞いてますけど明美さん?」
「シゲ君、あなた興味もない女の子のフルネームなんて覚えてる?どう?」
「なるほど。たしかに。そうなんだ、一也君」
「だからなんでそうなっちゃうんですか!」
「一也!」
 うい?香奈お姉ちゃん、突然立ち上がってどうしたの?
「彼女なら、お姉ちゃんにもちゃんと紹介しなさい!」
「だから違うって!」
 うい?


「遙!」
 一也、待って待って。階段降りるの早いよぅ。
「怒んないの。別にいいでしょ」
 ふぇえ…やっと追いついた。
「あ、吉田君、こんにちわ。おじゃましてます」
「松本さん、あんまりNecに関わらない方がいいよ。これは忠告」
「それは無理よ。ね?」
「無理ですね」
「笑って言わないでよ…」
 こんにちわー、彼女さん。僕ウィッチ。
「あ、猫。誰の猫ですか?」
「一也のお姉さんの猫よ。名前はウィッチ」
「おいで。ウィッチ」
 うい。ん?この人、香奈お姉ちゃんとか遙とは違うニオイがする。けど、すっごくいいニオイだぞ。
 ボールは遙よりちっちゃいかな?んしょ。
「?」
「あらら…ウィッチったら」
「ウッ…ウィッチ!そんなところさわっちゃダメだろ!」
 わぅ!でも、なんで一也が怒るんだ?
「ウィッチ君は男の子なんですか?」
「ううん。彼女よ。女の子」
「どうせ、遙が変なこと教えたんだろ」
「あのね、詩織ちゃん。この前一也とウィッチがお風呂に入った時ね──」
「うわあぁああ!お前、遙!!」
「?」
 イモムシ攻撃したら、僕、怒られちゃったんだよ。
「まだケーキ屋、連れてってもらってない」
「わかってるよ!」


「すげぇなぁ…これにお前が乗ってんのか…」
「吉原まで来るとは思わなかったよ」
「村上先輩にお誘いを受けてな。バイトがあったんだが、休んできたんだぞ。親友のことを思って」
「そりゃぁ嬉しいや」
 彼女さんはね、本当は詩織ちゃんて言うんだって。紛らわしいよね。それでね、今いる彼さんはね、本当は吉原君て言うんだって。
 紛らわしいよね。(注*21)
「俺も乗ってみたいな。乗らせてくれよ」
「いいけど、自由には動かせないよ」
「そりゃあな、動かし方なんてしらねぇもん」
「そうじゃなくて、R‐0を動かすのには手術しないといけないんだよ。こめかみに電極を埋め込んで──」
「わかった。止めてくれ吉田。俺、そういうスプラッタな話ダメなんだ」
 スプラッタってあれでしょ。香奈お姉ちゃんとかが、マンションで履いてるやつ。ぺたぺた鳴るんだ。(注*22)
「じゃ、止めた方がいいよ。エネミー倒すと、結構スプラッタだから」
「ああ…横浜の奴見たよ。──ってことは、あれもお前がやったのか!!」
 横浜?横浜ってなに?(注*23)
「そうだよ。あの日に、初めてこれに乗ったんだ」
 ねぇ一也。横浜ってなに?僕も食べたい。
「大変だったんだなぁ…吉田。うんうん。お前はこれのせいで、京都からこっちに来ることになったんだな」
「そ…そう…」
「先輩とは、ここで知り合ったんだな。お前はバイト先の友達と言っていたが…」
「う…うん。まぁ、ちょっと違ってるけど、間違いじゃないでしょ」
「苦労してるんだなぁ」
 あ。吉原君泣いちゃった。一也、いけないんだ。
「わざとらしい泣き真似はいいよ」
「じゃ、止めよう」
 嘘泣きだ!吉原君いけないんだ。
「先輩は、あの飛行機に乗ってるわけ?」
「そうだよ。イーグルって言うんだ。正式名称は──」
「そんなのは別にいいよ。んじゃ、お前の言っていたとおり、先輩とお前は、ただの仕事上のパートナーなんだな?」
「前から言ってるだろ。よっと!ここがコックピットだよ」
「どれどれ…狭いなぁ…俺の体格じゃきついな」
 僕ならすかすかだよ。
「先輩も戦闘したりするわけ?」
「いや、遙はしないよ。命令するだけ」
「戦いは男の仕事?」
「遙はサディストなんだよ」
「従ってるお前は?」
「なっ…そんなんじゃないよ!」
 ねぇねぇ、サディストってなに?おいしい?僕も食べたい。(注*24)


 更衣室は鏡のほかにも、いろんな物があって楽しいんだよ。
 シャワーもあるんだ。
「詩織ちゃん、きてきて」
「何ですか?」
 遙が言うと、詩織ちゃんさんはとことこと手招きする遙のトコに行く。僕もいこーっと。
「えーとねぇ…」
 って遙、ロッカーの中をごそごそする。なぁに?何を出すの?食べ物?僕にもちょうだい。
「あっ、あったあった」
 って、遙が取り出したのは、何かよくわかんない服だった。首のところから足のところまで、全部つながってるの。変なの。
「これねぇ、イーグルのパイロットスーツ」
 って、遙はビニールの袋に入ったまんまの服を、笑いながら、詩織ちゃんさんに渡した。あれ、ビニールに入ってるって事は、爪たてちゃいけない服なのかな?(注*25)
「へ…へぇ、そうなんですか」
 言いながら、ビニールの中の服を見る詩織ちゃんさん。うぃぃい、僕にも見せてーっ。うぃ?詩織ちゃんさん、熱か?顔が赤くなってるぞ。
「キてるでしょ。一也もR‐0のパイロットスーツ持ってるけど、私も一也もあんまし着ないもの。シゲさんとかは、出撃のたびに着ろっていうけど…さすがにねぇ」
 僕は服なんて着てないよ。何で人間は服着るんだろうなぁ。飼い人間の印なのかなぁ。(注*26)
「何回か着たけどね、すごいよー。ばっちしボディライン出ちゃうし。ある意味、水着より恥ずかしいかもね。まぁでも、一也の反応とかはおもしろいけど」
「へ…へぇ…」
 詩織ちゃんさん、平気かなぁ…まっかかだぞ。
「ねぇねぇ、詩織ちゃん」
 遙、何をにこにこしてんだ?
「はい?」
「着てみない、それ」
「え…」
 あ、詩織ちゃんさん、ゆでダコみたいになった。
「ええーっ!!」
 わぅうぅ、すごい声だぁっ。(注*27)


 にゅー…
 一也とか遙、吉原君とか詩織ちゃんと遊んでてつまんないや。
 給湯室の方にいこーっと。この時間なら、もう香奈お姉ちゃんがいるはずだもん。
 うぃ!?
 ドアが開いてない…入れないよぅ。開けてよぅ。香奈お姉ちゃーん。
「ダメですよ。私は嫌です」
 わぁあう!いきなり開けないでよう!うぎぁあ、挟まれちゃうッ!
「あっ!ごめんウィッチ。いたのね」
 いたよう…もぅ。あれ?教授もいたんだ。あれ?教授、そのおもちゃの絵は内緒なんじゃなかったの?香奈お姉ちゃんには、見せちゃってもいいの?
「ウィッチ、おいで」
 わぅ♪
「しかし香奈君。この話は決して悪い話じゃないぞ。防衛庁の方も、米軍の方も、全面的に協力してくれると言っているし…」
「ウィッチ、お腹空いたの?じゃ、なんか食べようね」
「香奈君!」
「ダメなものは駄目です。そんなこと言って、あれを開けてみたいだけなんでしょ」
「しかしねぇ…最終的には開けることになるんだし…」
「ダメです。絶対!」
 香奈お姉ちゃん、何を怒ってるの?あ、わかったぞ。教授がいじめたんだね。よし、僕がやっつけてあげようか?
「ウィッチ、冷蔵庫の中にカマボコが入ってたよ。たしかー…」
 わぅ!食べる食べる。
「香奈君…ちょっと聞いてよ」
「いくら聞かれても、前からの答えは変わりません。ダメです」
 カマボコ、カマボコ♪
「私だって、馬鹿じゃないですよ」
「わかっとるよ」
「開けられたら、どういう風に使われるか、わからない訳じゃないんですから」
「こだわるんだね…」
「あれをあけて、何に使うのか。もっとはっきりと示してくれたら、考えなくもないですけど」
 何をあけるの?本マグロの缶詰?違いそうだね。あ、わかった。冷蔵庫だね。冷蔵庫あけて、カマボコ食べようって話だ。
「しかし、香奈君。技術の進歩という物はそもそもそこに始まって──」
「わかってないです!」
 わぅ…香奈お姉ちゃん…本当に怒ってるぞ…初めて見た。
 あ…カマボコ…落としちゃった。
「始めから、そういう約束だったはずです」
「いや。だがしかし…」
「防衛庁だとか、米軍だとか──だって、あれは兵器じゃないんですよ。だって…そうでしょ。もともと…逆の目的のために作られたんですよ」
「いや…それはわかっているけれど…」
「教授、あれは誰にも渡さないって約束だったでしょう?」
「いや。だって…しかし香奈君。これはね」
「ダメです…ダメですよ、教授」
 あぅ…香奈…お姉ちゃん?
「教授…教授が約束を破ってあれを誰かに渡そうって言うんなら──」
 あ…香奈お姉ちゃん…泣いちゃった…
「か…香奈君?」
「私、BSSを壊します」


 香奈お姉ちゃん、壊れちゃったのかな?
 ぼーっと──いつもそうだけど、今日はいつもとちょっと違うぼーっとで、R‐0を見てるんだ。
 もう!これは教授のせいだな。教授が香奈お姉ちゃんをいじめたからだ。なんか、約束を破るとかどうとか言ってたけど、約束は絶対破っちゃダメなんだぞ。香奈お姉ちゃんが、いっつも言ってるじゃないか。
 香奈お姉ちゃん?
「ん?どうしたのウィッチ?」
 どうしたのじゃないよ。香奈お姉ちゃんこそ、どうしたの?だよ。
 教授が悪いんでしょ。僕がやっつけてあげるよ!
「どうしてこんな事になっちゃったんだろう──私がもっとしっかりしてたら、こんな事にはならなかったかも知れないのにね」
 そうなの?僕には、教授が悪いようにしか見えないよ。
「ウィッチ?ウィッチはどう思う?」
 僕は教授が悪いと思う。
「BSSは、R‐0は兵器じゃないよね?」
 BSSってなーに?兵器ってなーに?
「なのに教授はわかってくれないの…」
 だから、教授が悪いんだ!
「どうしたらいいのかなぁ」
 うぃ?なにを?
「少なくともね。BSSは兵器にするために作られたんじゃないと思うの。それなのに、教授…」
 わぅう!また泣いちゃうぅううぅ…香奈お姉ちゃぁあん…
「あ!そうだ」
 うい?
「今日は一也のお友達がお家に来るって言ってたっけ。お買い物してこなくっちゃ」
 か…香奈お姉ちゃん?
 あの…心配してた僕の立場はどうなっちゃうの?(注*28)


 結局ね。みんなはいっつも笑ってるんだ。
 一也も遙も、いっつも喧嘩っていうのをしてるんだけどね。それは仲がいい証拠なんだって。明美さんがそう言ってた。
 シゲさんもね、マンガばっかり読んでるわけじゃないんだ。他のみんなは知らないかも知れないけど、ときどき誰もいないハンガーで、R‐0を直してるんだよ。僕がじって見てると、「あっち行けよ」ってやられちゃうんだけど。
 教授はね。いつも何か考えてるの。
 でもね。みんなには内緒のことも、僕にはときどき教えてくれるんだ。でもね。みんなに内緒にしてる事って言うのはね。大体みんなをびっくりさせようっていう事なの。
 にやりって笑うんだよ。ちょっと怖いときもあるけど…一也が言うには、マッドサイエンティストっていうのは、そういうものなんだって。
 香奈お姉ちゃんはね、今日はちょっといつもと違ってたけど…本当はいっつも笑ってるんだ。
 教授が言うにはね。香奈お姉ちゃんはそれでいいんだって。僕にはよくわからないんだけど、にこにこ笑ってる方が、香奈お姉ちゃんのためになるんだって。
 整備員さん達も、おやっさんも、R‐0とかイーグルがすっごい好きなんだよ。R‐0とかイーグルで遊んでるとき、みんなすっごく楽しそうにしてるんだ。
 僕はね、こういう『猫』が大好きなんだ。
 でもね──
 いっつもそうってわけじゃないんだ。


「BSS、正常稼動を確認」
「両上腕部、および下半身のスキャニングテスト実行。モニターしました」
「システム解放。BSS、R‐0とのリンクを開始」
「了解。システム解放。BSS、全機体システムをオペレートしました」
「各部マニュピレーターとアクチュエーター、シンクロ正常。起動可能」
「一也君、いけるね?」
「駄目って言っても、駄目なんでしょ」
「わかってるじゃない。R‐0、イーグルとドッキング」
「イーグル、システム正常稼動を確認。メインエンジン、及びサブエンジン、ハードウェアシステム正常」
「レーザーサーチャー発信。R‐0、本体側にて受信確認。ドッキング準備完了」
「よし、ドッキング開始」
「了解。ノーマルシステムでドッキング開始」
「ドッキング完了。双方向回線開きます」
「さーて、じゃ。いくわよ一也」
「了解。いつでもいいよ」
 みんな、エネミーって言うのが来た時だけは顔つきが違うんだ。真面目なの。一也が言うにはね、地球を守らなきゃいけないから、みんな真面目にやらなきゃいけないんだって。
 ってことは、本当は真面目にやりたくないのかな?
 うい?そんなことないか。
 だって、みんな楽しそうだもんね。
 ね♪香奈お姉ちゃん。
「なぁにウィッチ?ご飯?それは一也達が帰ってきたらね」
 んもぅ…違うってば!


つづく








   次回予告

(CV 大空 衛)
 やあ!よいこのみんな、熱血してるかい?
 俺の名は大空 衛。こう見えても世界最強の究極ロボ、『ゴッデススリー』の一号機パイロットなんだ。
 俺達の操る究極ロボ、『ゴッデススリー』は対エネミー用の最新兵器!R‐0とは、ひと味もふた味も違うぜ。ま、相手じゃないって事かな。
 なんだって!そうまで言うならR‐0と戦って見ろだと!?
 あせるなあせるな。それは次回のお楽しみ、ってやつだぜ!
 俺達の『ゴッデススリー』が勝つか、R‐0が勝つか、期待しててくれよなっ!
 ってわけで次回、『三神合体超戦記 ゴッデススリー』第一話。
 『超合体!ゴッデススリー。』
 ちょっ…ちょっと待って下さい!(CV 吉田 香奈乱入)
 これは『新世機動戦記R‐0』なんですから。変な次回予告しないで下さい!
 っと。気を取り直して…次回、『新世機動戦記R‐0』
 『地球の未来を護るのは?』
 お見逃しなく!
 合い言葉はジャスト・フュージョン!!(大空 衛。熱血絶叫)


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